「IPX7」と「IPX8」に上下関係はない — IP保護等級を決める試験条件と、真水・常温という前提

カタログの数字
IPX7 / IPX8
根拠となる規格
JIS C 60529:2026(電気機械器具の外郭による保護等級(IPコード))/IEC 60529
その数字を作った試験条件
試験水は常温の真水(IPX1〜8)。7は水深1m・30分の静止水への一時的潜水、8は「7より厳しい条件」をメーカーと使用者が取り決める
前提が決まった年
1968年(JIS C 0920 制定)/2026年1月20日(JIS C 60529 へ移行)
「IPX7 / IPX8」という数字の家系図。カタログの表示から、それを定めた規格と試験条件までを辿ったもの。

IPX7 は、水深1m の水に30分沈めても有害な量の水が入らないこと。IPX8 は、それより厳しい条件で潜水させても有害な量の水が入らないこと。ただし IPX8 の「それより厳しい条件」が具体的に何メートル・何分なのかは、規格が決めていない。メーカーと使用者が取り決める。認定試験機関である日本品質保証機構(JQA)は、自社の IP 試験パンフレットで IPX8 を「潜水状態での使用に対して保護されている。7より厳しい条件の中で使用するもの(試験環境は協議により決定します)」と書き、設備の対応範囲を「深さ1m」「深さ2.3m」「深さ100m相当」の3段に分けて示している。同じ「IPX8」の4文字が、水深1m の製品にも水深100m 相当の製品にも付く。

つまり IPX7 と IPX8 は、数字が1つ大きいほうが強い、という並びになっていない。7 は規格が条件を固定した等級で、8 は条件が可変の等級である。そして噴流の等級である 5・6 とも、そもそも別系統の試験である。

資料には何が書かれているか

まず規格番号から確認した。ここで一つ、多くの解説記事がまだ追随していない事実が出てきた。

日本規格協会 JSA Group Webdesk(JIS C 0920:2003 書誌ページ)|資料の記述(要旨)

規格名称は「電気機械器具の外郭による保護等級(IPコード)」、英文名 Degrees of protection provided by enclosures (IP Code)。制定は1968年3月1日、最終改正は2003年7月20日。対応国際規格は IEC 60529:2001(IDT、一致)。原案作成団体は一般社団法人 日本電機工業会。そして状態は「廃止」。廃止年月日は2026年1月20日で、移行先は JIS C 60529:2026 と記載されている。廃止理由は、対応国際規格 IEC 60529 が2013年に改訂されたことへの整合。

日本規格協会 JSA Group Webdesk(JIS C 60529:2026 書誌ページ)|資料の記述(要旨)

JIS C 60529:2026、発行2026年1月20日、46ページ。適用対象は定格電圧72.5kV 以下の電気機器の外郭による保護等級の分類。対応国際規格は IEC 60529:1989+AMD1:1999+AMD2:2013(IDT)。

日本規格協会のプレスリリースは、これを「23年ぶりの刷新」と表現している。改正の中身として挙げられているのは、第2特性数字に「9」(高温・高圧の水噴流に対する保護)が追加されたこと、そして規格番号が4桁(0920)から5桁(60529)へ変わり国際規格番号と揃ったことである。IEC 側の公式書誌ページでも、現行版は Edition 2.2(2013年8月29日発行、207ページ、担当は TC 70)で、1989年の第2版に1999年と2013年の2つの改正を合冊したものだと確認できる。

規格票の本文は日本規格協会にも IEC にも著作権があり、無料では読めない。だから試験条件の数値は、規格に基づいて実際に試験を行っている認定試験機関の公開資料から拾った。JQA は産業標準化法に基づく試験事業者登録制度(JNLA)の認定を JIS C 0920 で受けている試験所であり、日東工業 菊川ラボラトリは ISO/IEC 17025 に基づいて IEC 60529:2001/JIS C 0920:2003 による IP コードの確認を行う試験機関だと自ら明記している。両者の数値は一致した。

試験条件の項目規定されている値・条件注記
水質(IPX1〜8 共通)常温の真水(水道水) 二次資料で確認海水・石けん水・入浴剤入りの水・温泉水・ジュース等は試験対象外。シャープは対応範囲を常温5〜35℃の真水・水道水と明記。※IPX9 だけは80±5℃の高温水
水の動き等級によって違う 二次資料で確認5・6 はノズルからの噴流(水は動く)。7・8 は静止した水への浸漬。「すべて静止」ではない
判定基準(水・第2特性数字)「有害な量の水の浸入がないこと」 二次資料で確認「水が1滴も入らないこと」ではない。日東工業は、有害か否かを判定できない場合は判定なしとする旨を明記
判定基準(防じん・6X)「粉じんが入らないこと」 二次資料で確認6X だけは「有害な量でなければよい」ではない。5X は入っても動作すればよい。同じIPコードの中で判定の考え方が違う
IPX1(滴下)鉛直に滴下する水、1mm/分 二次資料で確認日東工業の滴水試験装置の条件
IPX2(滴下・傾斜)滴下水 3mm/分、前後左右4方向に15°傾けて 二次資料で確認同上
IPX3(散水)揺動管または散水ノズル、10L/分 二次資料で確認鉛直から両側60°までの範囲
IPX4(飛まつ)揺動管または散水ノズル、10L/分 二次資料で確認揺動管の振り角の規定値は、当サイトが確認できた公開資料には出てこなかった(規格本文にはある)。日東工業の試験工程書では防水試験の実施時間を5分間としている。装置が2方式あり、どちらを使うかで当たり方が変わる
IPX5(噴流)内径6.3mm のノズル、約3m の距離、12.5L/分、最低3分 二次資料で確認ノズル径・水量は試験機関とメーカー(シャープ/au)で一致
IPX6(暴噴流)内径12.5mm のノズル、100L/分 未確認距離約3m・時間3分とする資料があるが、試験機関の公開資料では確認できなかった
IPX7(一時的潜水)水深1m、30分。水温差は製品と5K(5℃)以内 二次資料で確認外郭の高さにより水深の取り方が変わる規則があるとする資料があるが、条文未確認
IPX8(継続的潜水)7より厳しい条件。深さ・時間はメーカーと使用者の取り決め 二次資料で確認JQAは「試験環境は協議により決定します」と明記。設備は深さ1m/2.3m/100m相当に分かれる。※根拠は試験機関の公開資料であり、規格票の条文は確認していない
IPX9(2026年JISで追加)水圧8,000〜10,000kPa、水温80±5℃、流量14〜16L/分 二次資料で確認JQAの高圧蒸気洗浄噴射試験サービスの条件。この等級だけは高温水を使う
IP5X/IP6X(防じん)直径75μm 以下のタルク粉を舞わせた槽に8時間 二次資料で確認IP5Xは内部を負圧にするカテゴリー1と、負圧にしないカテゴリー2に分かれる
第2特性数字(水)の試験条件。数値は認定試験機関(JQA・日東工業 菊川ラボラトリ)およびメーカー公開資料による
1968
JIS C 0920 制定(3月1日)。原案作成団体は日本電機工業会 一次資料で確認
1989
IEC 60529 第2版発行。現行版の土台 一次資料で確認
1999
IEC 60529 Amendment 1 一次資料で確認
2003
JIS C 0920:2003 改正(7月20日)。IEC 60529:2001 と一致(IDT) 一次資料で確認
2013
IEC 60529 Amendment 2(Edition 2.2、8月29日発行)。IEC の書誌ページで版と発行日は確認できるが、この改正で第2特性数字9が加わったことを明記した公開文書には到達していない(日本規格協会のプレスリリースはJISへの9の追加を述べている) 二次資料で確認
2026
JIS C 60529:2026 発行、JIS C 0920:2003 は同日(1月20日)廃止 一次資料で確認
年表IPコードの規格としての来歴(書誌情報および日本規格協会の公表による)

筆者はこう読んだ

この規格を読むうえで最初にほどくべき結び目は、IPコードの2つの数字は「総合点」ではなく「試験項目のリスト」だということである。第1特性数字は固形物、第2特性数字は水。それぞれ独立に試験され、独立に申告される。だから X が出てくる。X は「その項目を試験していない、あるいは表示しない」という宣言であって、0(無保護)ではない。IPX4 と書かれたイヤホンに防じん性能がゼロだと言い切ることはできないし、逆にゼロだと保証されているわけでもない。ただ「その項目は語っていない」というだけである。ここを 0 と読み替えると、製品同士の比較が最初から壊れる。

そのうえで、第2特性数字の 7 と 8 である。数字が並んでいるので階段に見えるが、実態は違う。7 は規格が条件を固定した試験で、水深1m・30分という誰にとっても同じ条件がある。8 は「7より厳しい」という相対的な要件だけがあって、絶対値は試験のたびに決められる。JQA が「試験環境は協議により決定します」と書き、日東工業が「IPX8 については別途ご相談願います」と書くのは、そのためである。試験機関の側が、IPX8 という等級を、条件が持ち込まれてはじめて成立する枠として扱っている。

これが何を生むか。シャープは AQUOS の防水性能を「IPX8相当」と表示し、その定義を「常温で水道水、かつ静水の水深1.5m のところに本製品を静かに沈め、約30分間放置後に取り出したときに電話機としての機能を有する」と自ら書いている。水深1.5m。IPX7 の1m との差は50cm である。一方で JQA の IPX8 設備は水深100m 相当まで受ける。同じ「IPX8」が、50cm 上乗せしただけの製品と、100m 相当を通した製品の両方に付く。この2つを「どちらも IPX8 だから同等」と読むことはできない。数字が同じでも、その数字を作った条件が同じではない。

さらに厄介なのは、浸漬(7・8)と噴流(5・6)が別系統だという点である。水中に静かに沈めるとき、外郭にかかるのは水深に比例した一様な静圧である。ノズルから噴流を当てるとき、外郭にかかるのは方向を持った動的な衝撃力で、パッキンの隙間を局所的にこじ開ける向きに働く。試験機関の公開解説は、浸漬等級だけの外郭が噴流に適するとは限らず、二重表記(たとえば IPX5/IPX8)でない限り噴流の要求を満たす必要はない、と説明している。実際にシャープは「IPX5相当/IPX8相当」と2つ並べて書いている。並べて書く必要があるのは、8 が 5 を含まないからである。IP68 とだけ書かれた製品が、高圧のシャワーの水流に耐えると読むのは、規格の構造から言って飛躍になる。

ここで、水そのものの話をしておきたい。IPX1 から IPX8 までの試験水は、**すべて常温の真水(水道水)**である。海水の塩化物も、石けんや入浴剤の界面活性剤も、湯の温度も、試験条件のどこにも入っていない。動きの有無は等級によって違う——5・6 はノズルからの噴流を当てるので水は動いているし、7・8 は静止した水に沈める——が、水質だけは全等級を通して真水で固定されている。唯一の例外が、2026年のJISで追加された IPX9 で、これだけは水温80±5℃の高温水を使う。

アンカー・ジャパンは自社の解説で、試験は常温の真水のみで行われており「プール、海水、ジュースなどでの耐性は検証されていない」と書いている。KDDI が公開している AQUOS sense6 のオンラインマニュアルは、もっと踏み込んでいる。対応しない液体として石けん・洗剤・入浴剤入りの水・海水・プール水・温泉水・アルコール・ジュース・調味料・ペットの尿を列挙し、シャワーを当てる場合でも約10cm 離して6L/分以下の弱い水流にするよう書き、洗濯機や超音波洗浄機での洗浄を禁じている(この記述はシャープのFAQではなく、KDDI のマニュアル側にある)。シャープ自身のFAQで確認できるのは、対応が常温5〜35℃の真水・水道水に限られる、というところまでである。

「IPX7 なのに風呂で壊れた」という話の正体は、たいていここにある。壊れたほうが規格を外れているのではなく、風呂という環境が、はじめから試験の外にある。湯の温度も、入浴剤も、湯気も、どの等級の試験水にも入っていない。

もう一つ、静かに効いてくるのが判定基準そのものである。第2特性数字(水)の合否は「有害な量の水の浸入がないこと」であって、「1滴も入らないこと」ではない。日東工業は、有害か否かの判定ができない場合は判定なしとする、とまで書いている。ただしここには例外がある。第1特性数字の 6X(防じん)だけは「粉じんが入らないこと」が要求されており、「有害な量でなければよい」ではない。5X は粉じんが入っても動作すればよく、6X は入ってはいけない。同じIPコードの中で、判定の考え方が項目によって違う。

IP コードは「絶対に水が入らない」という保証書ではなく、「規定の条件で試験して、機能を損なう量は入らなかった」という記録である(6X を除く)。

時間の軸も抜けている。IP 等級は出荷時の1台に対する試験結果であり、パッキンの経年劣化や落下衝撃は勘定に入っていない。KDDI のマニュアルは、防水・防塵性能を維持するため、異常の有無にかかわらず2年に1回の部品交換(有償)を勧めている。Apple は Apple Watch について、耐水性能は永続的に維持されるものではなく時間とともに劣化しうる、再検査も密閉し直しもできないと明記している。5年前に IP68 だった端末が、今日も IP68 だとは誰も言っていない。

その Apple Watch は、横断で見たときにいちばん示唆的な例だった。Apple は耐水性能を IP 等級で示していない。ISO 22810:2010 の「50m」「100m」で示し、IEC 60529 由来の IP6X は防じん側にだけ使っている。時計の耐水は時計の規格で、防じんは IP コードで、と使い分けている。IP と ISO を並べて「50m だから IPX8 より上」と足し算することはできない。異なる規格の数字は、同じ土俵に乗っていない。ケーブルの規格で LANケーブルの「CAT6A」 が測定周波数という前提とセットでしか意味を持たないのと同じで、IP の数字も、試験条件を外すと比較可能性を失う。

メーカーカタログの表記脚注に書かれている測定条件
シャープ(AQUOS/FAQ)IPX5相当/IPX8相当、IP6X相当IPX8を「常温・水道水・静水・水深1.5m・約30分」と自社定義。このFAQで確認できるのは、対応が常温5〜35℃の真水・水道水に限られるところまで
KDDI(au/AQUOS sense6 オンラインマニュアル)IPX5・IPX8・IP6XIPX5を「内径6.3mmの注水ノズル、約3mの距離、12.5L/分、最低3分」と定義。対応しない液体として石けん・海水・温泉水・ペットの尿などを列挙。シャワーは約10cm離し6L/分以下、洗濯機・超音波洗浄機は不可。異常の有無にかかわらず2年に1回の部品交換(有償)を推奨、と明記
Apple(Apple Watch)ISO 22810:2010 の50m/100m + IP6X(防じんのみ)耐水はIP等級で表示していない。石けん・香水・溶剤・洗剤・日焼け止め・油などを避けるよう指示。耐水性能は永続的でなく劣化しうる、再検査・再密閉はできないと明記
アンカー・ジャパン(スピーカー・イヤホン)IPX4/IPX5/IPX7/IPX8 など試験は常温の真水のみで実施されており、プール・海水・ジュースでの耐性は検証されていない、と自社解説に明記
パナソニック(メンズシェーバー)「WASHABLE」表示と「お風呂剃り」対応の別水洗い可(WASHABLE)と、風呂場で使える(お風呂剃り)は別の話だとFAQで区別。充電しながら使える機種は風呂で使わないよう指示
JQA(認定試験機関)IPX8 の試験環境「7より厳しい条件の中で使用するもの(試験環境は協議により決定します)」。設備の対応は深さ1m/2.3m/100m相当
横断各社の表記と、公開されている前提条件各社の公開カタログ・製品ページの記載を確認したもの。製品の優劣を比較したものではない。
確認できていないこと

「第2特性数字が7または8だけの外郭は、二重表記でない限り噴流(5・6)の要求を満たす必要はない」という趣旨の記述が、規格本文のどの条項にどう書かれているかは確認できていない。規格票を読めていないためである。本記事はこれを、試験機関の公開解説と、実際に「IPX5/IPX8」と二重表記するメーカーの慣行から secondary として扱っている。

あなたの条件ならこう読み替える

あなたが見ている「IP◯◯」は、どんな場面で使う製品の数字ですか?
IPX8 とだけ書かれた製品を、噴流(シャワー・洗浄)に当てる場面
第2特性数字の5または6が併記されているかを見る
浸漬(7・8)と噴流(5・6)は別系統の試験。静止した水の一様な静圧と、ノズルからの方向を持った衝撃力では、外郭にかかる力の質が違う。試験機関の公開解説は、二重表記でない限り噴流の要求を満たす必要はない、と説明している(規格票の条文は当サイトでは確認できていない)
「IPX8相当」の製品を、実際にどれくらいの深さまで持ち込めるか知りたい
メーカーが公開している水深と時間の定義文を探す
IPX8の条件は規格が決めておらず、メーカーと使用者の取り決めで決まる。シャープは水深1.5m・30分と公開しているが、公開していないメーカーの条件は外からは分からない
海・プール・温泉・風呂・石けん水で使う場面
試験条件から外れていることを前提に、取扱説明書のほうを読む
IP試験の水はすべて常温の真水(水道水)で、静止している。塩分・界面活性剤・湯温・湯気はどの等級の試験条件にも入っていない。IP等級は、その環境について何も語っていない
運動中・水中で腕を動かす、ウォータースポーツで使う場面
IP等級ではなく、時計なら ISO 22810 のような別規格の表示があるかを見る
IP試験は静止状態で行う。高速で移動する水は試験条件にない。Apple Watch は耐水を IP ではなく ISO 22810 の50m/100mで示している。異なる規格の数字は足し引きできない
数年使った端末の防水性能を当てにする場面
出荷時の1台の試験結果であることを思い出す
IP等級に経年劣化も落下衝撃も入っていない。KDDI のマニュアルは2年に1回の部品交換(有償)を推奨し、Apple は耐水性能が時間とともに劣化しうると明記している
屋外の電気設備・分電盤・照明の IP 等級を決める場面
この記事は判断材料にしない
当サイトは設計・施工の判断を書かない。電気設備の保護等級の選定は、製品規格(JIS C 8105-1、JIS T 0601-1 など IPコードを引用する規格)と設置環境に依存する。実際の判断は有資格者・専門機関に委ねること

具体的な等級の数値を並べて引きたいときは、IP保護等級の早見表のほうが早い。この記事が引き受けているのは、その表の数字が「常温・静止・真水」という3つの前提の上に立っていることと、7 と 8 が階段ではないことを示すところまでである。

なお、水が入った電気製品をそのまま使い続けてよいか、感電や発火の可能性があるか、といった安全に関わる判断は本記事の範囲外である。それはメーカーの取扱説明書と、有資格者・専門機関の領分になる。規格が語れるのは「その数字はこういう条件で決まった」ということだけで、「あなたの状況で安全かどうか」ではない。同じ構造は、ボルトの強度区分「10.9」 が引張試験の条件から出た数字であって、目の前の締結部の可否を語る数字ではないことにも通じている。

規格は、条件を固定して初めて数字を出せる。固定された条件は、現実の使い方より必ず狭い。IPコードの前提が1968年から積み上がってきたものであるのに対し、それを付ける製品が、いまや風呂に持ち込まれ、海で振り回され、汗と日焼け止めにまみれた腕に巻かれている。規格が古いのではなく、規格の前提条件と、現代の使い方がズレている。

この数字について、よく調べられている疑問

IPX8はIPX7より高性能ということですか。

単純な上下関係ではない。IPX7は水深1m・30分という規格が定めた条件での一時的潜水、IPX8は「7より厳しい条件」をメーカーと使用者が取り決めて試験する等級で、深さも時間も製品ごとに異なる。認定試験機関のJQAはIPX8の試験環境を「協議により決定します」と明記している。実際、あるスマートフォンのIPX8は水深1.5m・30分で、IPX7の1mとの差は50cmしかない。

IPX4の「X」は防塵性能がゼロという意味ですか。

違う。Xは「その特性数字について試験していない、または表示しない」という意味で、保護等級0(無保護)とは別物である。IPX4と表記された製品に防塵性能がまったくないとは限らず、単に第1特性数字を申告していないだけのこともある。逆にIP04のように0と明記されていれば、それは無保護を意味する。

IPX7のスピーカーを風呂で使っても大丈夫ですか。

記事として言えるのは、IPX7の試験が常温・静止した真水で行われるという事実までである。石けん・入浴剤・湯気・高温は試験条件に含まれない。シャープは対応するのは常温5〜35℃の真水・水道水のみと明記しており、KDDIのマニュアルは石けんや入浴剤入りの水を対象外として列挙している。アンカー・ジャパンも試験は常温の真水のみと書いている。個々の製品の可否は取扱説明書に従うこと。

IP67とIP68はどちらを選べばよいですか。

当サイトは製品選定の判断を書かない。書けるのは、IP67とIP68の第2特性数字7と8が別々の試験だという事実である。7は規格が条件を決め、8はメーカーが条件を決める。さらに7も8も静止した水への浸漬であり、噴流(5・6)とは別の試験なので、IP68だけの製品が高圧のシャワーに耐えるとは限らない。

この記事の限界

  • JIS規格票および IEC 60529 の本文は有償で、無料公開されていない。本記事は日本規格協会・IEC の書誌ページ(規格番号・表題・制定改正年・対応国際規格・ページ数)までを一次資料として確認し、試験条件の数値は認定試験機関(JQA、日東工業 菊川ラボラトリ)とメーカーの公開技術資料から、複数の独立した資料が一致する範囲で書いた。規格票の条文そのものは読んでいない。
  • 「第2特性数字が7または8だけの外郭は、二重表記でない限り噴流(5・6)に適するとは限らない」という趣旨の注記が規格本文のどの条項にどう書かれているかは、条文を読めていないため確認できていない。本記事では試験機関の公開解説(Castle Compliance)と、実際に「IPX5/IPX8」と二重表記するメーカーの慣行から secondary として扱っている。
  • IPX3・IPX4 の揺動管(オシレーティングチューブ)方式と散水ノズル方式の使い分け、IPX6 の距離・時間、IPX7 の水深規定(外郭の高さによって「最下点1m」と「最上点150mm」を使い分ける規則)については、複数の資料で数値が一致しない、または一方でしか確認できなかった箇所がある。表中では confidence を下げて示した。
  • 2026年1月20日発行の JIS C 60529:2026 は、書誌情報(発行日・ページ数・対応国際規格)と日本規格協会のプレスリリースまでは確認したが、旧 JIS C 0920:2003 との条文差分は確認していない。第2特性数字「9」の追加以外に何が変わったかは本記事では扱えていない。
  • 各社の「IPX8相当」の試験条件は各社が公開している範囲でしか確認できない。公開していないメーカーの条件は不明である。
  • IPX3・IPX4 で使う揺動管(オシレーティングチューブ)の振り角は、規格本文には規定があるが、当サイトが確認できた公開資料(JQA・日東工業)には数値が出てこなかった。本記事では数値を書いていない。
  • 「対応しない液体の列挙」「シャワーは約10cm離して6L/分以下」「2年に1回の部品交換(有償)」は、いずれも KDDI が公開している AQUOS sense6 のオンラインマニュアルの記述である。シャープ自身のFAQで確認できたのは、対応が常温5〜35℃の真水・水道水に限られることまでである。同じ端末について書かれた文書でも、どちらの文書に何が書かれているかは区別して記載した。
  • 当サイトは試験設備を持たず、いかなる製品の防水性能も実測していない。製品が濡れた場合の扱い、電気製品の水濡れに伴う感電・発火の可能性など安全に関わる判断は、本記事の範囲外である。実際の判断はメーカーの取扱説明書と有資格者・専門機関に従うこと。

出典

  1. JIS C 0920:2003 電気機械器具の外郭による保護等級(IPコード)/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-14 確認
  2. JIS C 60529:2026 電気機械器具の外郭による保護等級(IPコード)/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-14 確認
  3. IEC 60529:1989+AMD1:1999+AMD2:2013 CSV/ International Electrotechnical Commission / 2026-07-14 確認
  4. 23年ぶりにIPコード(電気機械器具の保護等級)のJISを刷新/ 一般財団法人 日本規格協会 / 2026-07-14 確認
  5. IP試験(防水試験・防塵試験)/ 一般財団法人 日本品質保証機構(JQA) / 2026-07-14 確認
  6. IP試験実施について(菊川ラボラトリ)/ 日東工業株式会社 / 2026-07-14 確認
  7. 防水/防塵/耐衝撃性能に関するご注意(AQUOS sense6 SHG05)/ KDDI(au) / 2026-07-14 確認
  8. Apple Watch の取り扱いに関する重要な情報/ Apple / 2026-07-14 確認
  9. 新サービス「高圧蒸気洗浄噴射試験(IPX9K / IPX9)および加圧飛水試験(IPX4K)」開始のお知らせ/ 一般財団法人 日本品質保証機構(JQA) / 2026-07-14 確認
  10. 【AQUOS L】防水/防塵機能はありますか?(FAQ)/ シャープ / 2026-07-14 確認
  11. スピーカー・イヤホンの「防水・防塵規格」とは?/ アンカー・ジャパン / 2026-07-14 確認
  12. IPX7 & IPX8 Immersion Testing/ Castle Compliance / 2026-07-14 確認
  13. シェーバーの「WASHABLE」表示と「お風呂剃り」対応の違い(FAQ)/ パナソニック / 2026-07-14 確認

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