熱電対とPt100はどちらが正確か — 「クラス1」と「クラスA」は別の規格の物差しである

カタログの数字
Pt100クラスA=±(0.15℃+0.002|t|)/K熱電対クラス1=±1.5℃(375℃未満)
根拠となる規格
JIS C 1604:2013(測温抵抗体)/JIS C 1602:2015(熱電対)
その数字を作った試験条件
許容差は新しい素子・素線に適用。クラスごとに有効な温度範囲があり、高精度クラスほど範囲が狭い
前提が決まった年
C 1604は1954年1月30日制定・2013年12月20日改正/C 1602は2015年改正
「Pt100クラスA=±(0.15℃+0.002|t|)/K熱電対クラス1=±1.5℃(375℃未満)」という数字の家系図。カタログの表示から、それを定めた規格と試験条件までを辿ったもの。

温度センサを選ぶ場面で必ず出てくる比較が、熱電対と測温抵抗体(Pt100)です。そしてカタログには、熱電対なら「クラス1」「クラス2」、Pt100なら「クラスA」「クラスB」という等級が並びます。名前の形がよく似ているので同じ物差しの目盛りに見えますが、これは別の規格が別の考え方で作った、互いに対応しない2つの体系です。

クラス1・2を定めているのはJIS C 1602:2015(熱電対)、クラスAA・A・B・Cを定めているのはJIS C 1604:2013(測温抵抗体)。両方の許容差を同じ温度に並べて、「どちらが正確か」という漠然とした問いを、数字で答えられる形に直します。

資料には何が書かれているか — クラス1とクラスAは別の規格の物差し

まずPt100側から。JIS C 1604の制定は1954年1月30日、現行版は2013年12月20日改正で、2023年6月20日に確認され、有効です。対応国際規格はIEC 60751:2008(MOD=修正して対応)。原案を作ったのは日本規格協会と日本電気計測器工業会です。Pt100の「100」は0℃における公称抵抗値100Ωのことで、温度係数はα=3.851×10⁻³℃⁻¹と定義されています。

JIS C 1604:2013(転載本文にもとづく要旨)|資料の記述(要旨)

(要旨)測温抵抗体の許容差クラスは4段階とし、許容差は温度tの関数として定める。クラスAA=±(0.1℃+0.0017|t|)、クラスA=±(0.15℃+0.002|t|)、クラスB=±(0.3℃+0.005|t|)、クラスC=±(0.6℃+0.01|t|)。各クラスには有効な温度範囲があり、巻線抵抗素子と薄膜抵抗素子で範囲が異なる(例:クラスAは巻線−100〜450℃、薄膜−30〜300℃)。

一方の熱電対側。JIS C 1602:2015のK熱電対の許容差は、クラス1が「−40℃以上375℃未満で±1.5℃、375℃以上1,000℃未満で±0.004・|t|」、クラス2が「−40℃以上333℃未満で±2.5℃、333℃以上1,200℃未満で±0.0075・|t|」です。対応国際規格はIEC 60584-1:2013(MOD)。そして注記に、見落とせない一文があります——「許容差は、新しい素線だけに適用する」。使い込んで劣化した熱電対は、この表の保証の外です。

名前が似ているのは偶然に近いものです。2つのJISはそれぞれ別の国際規格を修正して取り込んでいます。C 1604の親はIEC 60751(白金測温抵抗体)、C 1602の親はIEC 60584-1(熱電対の起電力と許容差)。つまり国際規格の段階からすでに別の文書で、等級の呼び方が揃っていないのは日本での翻訳の問題ではなく、出自が違うからです。「クラス」という同じ日本語をまとっていても、AとB、1と2の間に換算表は存在しません。

2つの体系は、式の形からして違います。Pt100の許容差は「定数+温度に比例する項」の一本の式で、0℃で最も狭く、温度が上がるにつれ直線的に開いていきます。K熱電対のクラス1は、375℃までは±1.5℃の定数で、そこから先は温度比例に切り替わります。この375℃という境目は恣意的な数字ではありません。0.004×375=1.5。つまり、定数±1.5℃と比例式±0.004|t|がちょうど一致する温度で式が切り替わっているのです。実質的には「±1.5℃か±0.004|t|の大きいほう」を範囲で書き下した形になっています。

定義の表

試験条件の項目規定されている値・条件注記
100℃での許容差K熱電対クラス1=±1.5℃/Pt100クラスA=±0.35℃/クラスB=±0.80℃ 二次資料で確認Pt100クラスAは熱電対クラス1の4倍強厳しい。クラスBでも約2倍
200℃での許容差K熱電対クラス1=±1.5℃/Pt100クラスA=±0.55℃/クラスB=±1.30℃ 二次資料で確認クラスBがクラス1に迫ってくる
400℃での許容差K熱電対クラス1=±1.6℃/Pt100クラスA=±0.95℃/クラスB=±2.30℃ 二次資料で確認K熱電対は375℃から比例式(0.004×400=1.6)。クラスBはここで逆転される
Pt100 クラスAAの式と範囲±(0.1℃+0.0017|t|)。巻線−50〜250℃/薄膜0〜150℃ 二次資料で確認最上位クラスは温度範囲が最も狭い
Pt100 クラスAの式と範囲±(0.15℃+0.002|t|)。巻線−100〜450℃/薄膜−30〜300℃ 二次資料で確認同じ「クラスA」でも素子形式で範囲が150℃違う
Pt100 クラスB・Cの式と範囲B=±(0.3℃+0.005|t|)、C=±(0.6℃+0.01|t|)。巻線はいずれも−196〜600℃ 二次資料で確認規格上の上限は600℃。1,000℃級はKなど熱電対の領域
K熱電対 クラス1−40℃以上375℃未満=±1.5℃/375℃以上1,000℃未満=±0.004・|t| 二次資料で確認375℃は定数と比例式が一致する温度(0.004×375=1.5)
K熱電対 クラス2−40℃以上333℃未満=±2.5℃/333℃以上1,200℃未満=±0.0075・|t| 二次資料で確認許容差は新しい素線だけに適用(注記)
規格の来歴(C 1604)1954年1月30日制定・2013年12月20日改正・有効 一次資料で確認JSA書誌ページで確認。IEC 60751:2008(MOD)
同じ温度で並べる — K熱電対クラス1とPt100クラスA・Bの許容差
1954
JIS C 1604(測温抵抗体)制定(1月30日)。以後、白金測温抵抗体の等級を規定し続ける 一次資料で確認
2013
C 1604現行版に改正(12月20日)。IEC 60751:2008を修正対応(MOD)し、クラスAA〜Cの4段階と巻線/薄膜別の温度範囲を規定 一次資料で確認
2015
JIS C 1602(熱電対)現行版。IEC 60584-1:2013を修正対応(MOD)し、クラス1〜3の許容差を規定 二次資料で確認
2023
C 1604確認(6月20日)。1954年生まれの規格が現役で維持されている 一次資料で確認
年表2つの規格が通ってきた道筋(確認できた範囲)

この数字をどう読むか — 許容差は物差しごとに比べる

表の数字が答えている問いは、はっきりしています。100℃を測るとき、規格が素子に許している誤差は、K熱電対クラス1で±1.5℃、Pt100クラスAで±0.35℃。4倍強の開きです。0℃付近ならこの差はさらに広がります。Pt100の式は0℃で定数項だけ(クラスAなら±0.15℃)になるのに対し、K熱電対クラス1は0℃でも±1.5℃のままだからです。メーカーの技術解説が「0℃付近の温度は熱電対に比べ約10分の1の温度誤差で測定できる」と書くのは、この式の形の帰結です。中低温の精度勝負では、Pt100に分があります。

ただし、この比較には3つの但し書きが要ります。

1つめは、高精度なクラスほど使える温度範囲が狭いことです。Pt100の最上位クラスAAの有効範囲は、巻線素子で−50〜250℃、薄膜素子ではわずか0〜150℃。クラスAでも巻線−100〜450℃、薄膜−30〜300℃です。

そして規格の表の上限は、最も広いクラスB・Cでも600℃。K熱電対がクラス1で1,000℃、クラス2で1,200℃までの許容差を持っているのとは対照的です。メーカー解説は実用上の目安として「測温抵抗体の最高使用温度は500℃位」とさらに内側の数字を挙げています。数百℃を超える世界では、そもそもPt100は比較の土俵に立てません。「どちらが正確か」の答えは、測る温度が決めます。

2つめは、同じクラス名でも素子形式で範囲が違うことです。JIS C 1604は巻線抵抗素子(W0.1〜W0.6)と薄膜抵抗素子(F0.1〜F0.6)を区別し、同じ「クラスA」でも巻線は450℃まで、薄膜は300℃までと150℃の差を付けています。カタログで「クラスA」の文字だけを見て範囲を判断することはできません。どちらの素子か——記号のWとFのどちらか——までがワンセットです。等級名は1枚の札に見えて、裏に条件が畳み込まれている。この構図は、「H7」というはめあい記号が呼び径ごとに別の寸法を意味していたのと同じです。

3つめ。**この許容差は、素子単体の話です。**実際の測定値には、熱電対なら基準接点補償と補償導線の誤差、Pt100なら導線抵抗(2線式・3線式・4線式で扱いが変わる)と計器側の誤差が上乗せされます。

さらにC 1602の注記どおり、許容差は「新しい素線」にしか適用されません。±0.35℃という数字は「システムがその精度で測れる」保証ではなく、「新品の素子が規格に合格する条件」です。K熱電対の起電力がそもそもどうやって決まっているかは、親記事「Kタイプとは何か」で書いたとおり、0℃基準の熱起電力表が土台にあります。許容差は、その表からのずれの上限にすぎません。

最後に、応答と価格という規格の外の軸があります。メーカー解説によれば、熱電対は極細の保護管が作れるため応答が速く、狭い場所にも入り、安価。測温抵抗体は素子の構造上形状が大きく応答が遅く、高価。そして「0.15℃のよい安定性」には「振動の少ない良好な環境で用いれば」という前提が付いています。許容差の表は精度の軸しか持っていません。センサ選びが許容差だけで決まらないのは、規格が悪いのではなく、規格が受け持っている範囲がそこまでだからです。

あなたの条件ならこう読み替える

カタログの「クラス1」「クラスA」を、どう読むか
100℃前後を±0.5℃以内で読みたい
K熱電対クラス1(±1.5℃)では規格上届かない。Pt100クラスA(±0.35℃)・クラスAA(±0.27℃)の領域として読む
許容差は素子が保証する誤差の上限。上限が目標を超えている組み合わせは、選定の入口で外れる
600℃を超える温度を測る
Pt100の許容差の表(上限600℃)の外なので、K熱電対など熱電対の側で読む
JIS C 1604の許容差クラスはクラスB・Cでも600℃まで。メーカーの実用目安は500℃位とさらに内側にある
カタログに「Pt100 クラスA」とだけあり、巻線か薄膜か書かれていない
有効温度範囲が確定しないと読む。素子形式(記号WかFか)を仕様書で確認する
同じクラスAでも巻線は−100〜450℃、薄膜は−30〜300℃。範囲の上限が150℃違う
使い込んだ熱電対の指示値がクラス1に収まっているか気になる
クラス1の表は根拠にできないと読む。校正で現状を確かめる
JIS C 1602は「許容差は、新しい素線だけに適用する」と明記している。経年後の誤差は規格の保証の外

どちらのセンサを選ぶべきか——あなたの設備に熱電対とPt100のどちらを付けるか——には、ここでは立ち入りません。応答・配線距離・振動・価格・保守体制が絡む選定の判断を、当サイトはしません。規格が決めているのは、「クラス1」「クラスA」という札のそれぞれに、どの温度範囲で何℃の誤差までが許されているか、という線引きだけです。その線を同じ温度に並べて見せるところまでが、この記事の仕事です。

確認できていないこと

本記事の比較はセンサ素子の許容差に限っている。実際の測定系では基準接点補償・補償導線・導線抵抗・計器誤差が加わるため、系全体の精度は素子の許容差より必ず悪くなる。また「0℃付近で約10分の1」「最高使用温度500℃位」はメーカー技術解説の記述であり、規格の規定値ではない。規格票正本(有償)は未購入で、本文の確認は公開転載による。

この数字について、よく調べられている疑問

熱電対とPt100(測温抵抗体)はどちらが正確ですか。

素子の許容差で比べると、100℃ではK熱電対クラス1が±1.5℃(JIS C 1602:2015)、Pt100クラスAが±0.35℃(JIS C 1604:2013)で、Pt100のほうが4倍強厳しい規定です。ただしPt100の規格の温度範囲はクラスB・Cでも600℃までで、それより高温は熱電対の領域です。どちらが「正確」かは、測る温度がどこかで変わります。

熱電対の「クラス1」とPt100の「クラスA」は同じ等級ですか。

別の規格の別の体系です。クラス1・2はJIS C 1602(熱電対)の区分、クラスAA・A・B・CはJIS C 1604(測温抵抗体)の区分で、数字の付け方も許容差の式も対応していません。「クラス1相当のPt100」のような読み替えはできず、必ずそれぞれの規格の許容差の式に戻って比べる必要があります。

Pt100のクラスAはどの温度でも使えますか。

使えません。JIS C 1604:2013では許容差クラスごとに有効な温度範囲が決まっており、クラスAは巻線抵抗素子で−100〜450℃、薄膜抵抗素子で−30〜300℃です。最上位のクラスAAはさらに狭く、巻線で−50〜250℃、薄膜で0〜150℃です。高精度なクラスほど、使える温度範囲は狭くなります。

この記事の限界

  • JIS C 1604・C 1602の規格票正本(日本規格協会発行・有償)は購入していない。本文の確認は転載サイト(kikakurui.com)とJSAの書誌ページによる。正本との一字一句の照合はしていない。
  • 本記事の比較はK熱電対とPt100に限った。R・J・Tなど他の熱電対、Pt1000などの他の公称抵抗値については扱っていない。
  • 許容差は素子・素線そのものの規定であり、実際の測定誤差には基準接点補償・補償導線・導線抵抗(2線式/3線式/4線式)・計器側の誤差が加わる。本記事はセンサ素子の許容差だけを比べており、測定系全体の精度は扱っていない。
  • 「0℃付近では熱電対の約10分の1の温度誤差」「精度は測定温度の±0.2%程度が限界」「測温抵抗体の実用上の最高使用温度は500℃位」という記述はメーカー技術解説によるもので、規格の規定値ではない。当サイトで実測はしていない。
  • JIS C 1602:2015の制定・改正の書誌(制定年月日・確認日)はJSAの書誌ページで個別に確認していない。改正年2015と対応国際規格は転載本文の記載による。
  • 1954年のJIS C 1604制定時にどんな等級区分だったか、クラスAA・Cがいつ追加されたかという改正の経緯は確認できていない。

出典

  1. JIS C 1604:2013 測温抵抗体/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-24 確認
  2. JIS C 1604:2013(転載本文)/ kikakurui.com / 2026-07-24 確認
  3. JIS C 1602:2015(転載本文)/ kikakurui.com / 2026-07-24 確認
  4. 最適な温度のコントロールのための熱電対と測温抵抗体/ 株式会社ジェイ・サーモセンサー(FA Ubon掲載) / 2026-07-24 確認

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