熱電対の「Kタイプ」とは何か — クロメルとアルメルの差を0℃基準で読む
熱電対の型番の「K」は、測れる温度の高さでも、精度の等級でもありません。2種類の金属の組み合わせを指す記号です。+脚がクロメル(ニッケルとクロムを主とした合金)、−脚がアルメル(ニッケルとアルミニウムを主とした合金)。この2本の金属線が両端の温度差に応じて生む電圧を測るのが、K熱電対です。この組み合わせと、そこから生まれる熱起電力の値を定めているのが、JIS C 1602:2015「熱電対」と、対応国際規格の IEC 60584-1:2013「Thermocouples - Part 1: EMF specifications and tolerances」です。
「K」を温度や精度の記号だと思うと、二つのことを取り違えます。一つは、Kがまず材料の名前だということ。もう一つは、規格の表に並ぶ熱起電力の値が、ある一点の温度を保った前提でしか成り立たない、という事実です。Kという一文字が背負う定義を、規格まで遡って読み解いていきます。
資料には何が書かれているか — Kは2金属の組み合わせの記号
IEC 60584-1 は、記号で区別される熱電対(R・S・B・J・T・E・K・N・C・A の各タイプ)について、温度と熱起電力の対応を定めた規格です。発行元IECの公式ページで、第3版が2013年8月に出ていること、基準となる関数が「基準接点を0℃に置いたときの熱起電力を、温度の多項式として表したもの」であることを確認しました。
この多項式による基準関数は第3版で新しく入ったものではなく、ITS-90に対応した第2版(1995年)から引き継いだものです。同じIECのページによれば、第3版(2013年)の実質的な改訂は、別にあった許容差の規格(旧Part 2、1982年)を本規格へ統合した点にあります。温度は1990年国際温度目盛(ITS-90)に基づきます。規格の中心にあるのは、「0℃を基準にしたときの電圧」という一枚の対応表です。
IEC 60584-1:2013(IEC 公式刊行物ページ・要旨)|資料の記述(要旨)(要旨)記号付き熱電対(K を含む)について、熱起電力を温度の関数として与える基準関数と、その許容差を規定する規格。基準関数は、基準接点を0℃としたときの熱起電力を表す多項式である。第3版(2013年)は、Part 1 の第2版(1995年)と、許容差を定めていた旧Part 2(1982年)を統合した版にあたる。
日本側の JIS C 1602:2015 も同じ枠組みです。転載された本文で確認できた範囲では、K熱電対の+脚は「ニッケル及びクロムを主とした合金」、−脚は「ニッケル及びアルミニウムを主とした合金」と規定され、基準接点の温度は0℃と明記されています。熱電対そのものは「熱起電力を発生させる目的で2種類の導体の一端を電気的に接続したもの」と定義されます。ここでも値の前提は0℃です。
熱起電力が生まれる原理は、1821年にゼーベックが見つけた現象までさかのぼります。異なる2種の金属をつなぎ、二つの接点に温度差を与えると電圧が生じます。この電圧の極性と大きさは、材質と温度差だけで決まります。K の場合、クロメルとアルメルの組み合わせが、温度差1℃あたりおよそ41マイクロボルト(常温付近の代表値)という感度を持ちます。この感度が、材料の組み合わせ、つまり「タイプ」ごとに決まります。
規格の表は「規準熱起電力表」と呼びます。ある温度で、基準接点を0℃に置いたときに何マイクロボルト生じるかを、1℃刻みで並べた表です。クロメル・アルメルという呼び名は材料の通称で、JISの本文は組成、つまりニッケルとクロム、ニッケルとアルミニウムという書き方で記述します。呼び名がメーカー由来でも、規格が縛るのは組成と、そこから出る熱起電力の値です。だからKどうしなら、どのメーカーの線でも、同じ温度に同じ表を使えます。タイプ記号の互換性は、この材料の定義に支えられています。逆に、材料が規格どおりでなくなれば、表の値も崩れます。
定義・試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 規格(国際) | IEC 60584-1:2013 第3版 一次資料で確認 | 正式表題 Thermocouples - Part 1: EMF specifications and tolerances |
| 規格(国内) | JIS C 1602:2015「熱電対」 二次資料で確認 | 1995年版からの改正版。転載本文で確認 |
| +脚(クロメル) | ニッケル・クロムを主とした合金 二次資料で確認 | JIS本文の表現 |
| −脚(アルメル) | ニッケル・アルミニウムを主とした合金 二次資料で確認 | JIS本文の表現 |
| 基準接点温度 | 0℃ 一次資料で確認 | 規準熱起電力表・基準関数の前提。IECが明記 |
| ゼーベック感度(常温付近) | 約41μV/℃ 二次資料で確認 | 温度で変化する代表値 |
| 許容差 クラス1 | ±1.5℃ または ±0.004|t|(大きい方) 二次資料で確認 | IEC 60584-1 |
| 許容差 クラス2 | ±2.5℃ または ±0.0075|t|(大きい方) 二次資料で確認 | IEC 60584-1 |
| 許容差 クラス3 | ±2.5℃(−167〜+40℃)/ ±0.015|t|(−200〜−167℃) 二次資料で確認 | JIS C 1602:2015 表2(転載本文で確認) |
温度範囲について補足します。「Kは −200〜+1200℃くらい使える」という言い方をよく見ますが、これは条件しだいで動く目安にすぎません。JISでは常用限度と過熱使用限度が素線の太さで変わります(たとえば1.00mm径では常用限度が高温側で数百℃という段階があります)。上限を決めるのは記号Kではなく、線径・被覆・クラスの組み合わせです。「タイプ=使える温度」という等号は、規格のどこにもありません。
K をどう読み解くか
K という記号は、順番で読むと分かりやすくなります。まずKが材料を決めます。クロメルとアルメルの組み合わせが決まると、温度差あたりの電圧(熱起電力)が決まります。その電圧を温度に翻訳するのが規準表で、表の値は基準接点を0℃に置いた前提でしか成り立ちません。精度クラス(1・2・3)は、その翻訳がどれだけ規格値に近いかの保証幅です。Kは最初から最後まで、材料の記号です。
ここが最大の誤解ポイントです。熱電対は、測温接点の温度そのものを測っていません。測っているのは、測温接点と基準接点(冷接点)の温度差に対応した電圧です。だから規準表の「600℃で何マイクロボルト」という値は、基準接点が0℃であることとセットでしか意味を持ちません。実機の端子台は0℃ではありません。そこで計測器は、基準接点付近の温度を別に測り、0℃基準の熱起電力に足し込みます。これが冷接点補償です。表示温度は、熱電対が生んだ電圧そのものではなく、冷接点補償を通した結果です。
補償導線が要るのも、この0℃基準の構造からです。測温接点で生じた熱起電力を計器まで運ぶとき、途中を普通の銅線でつなぐと、熱電対線と銅線の継目が新たな温度差を抱え、余計な起電力が生まれます。補償導線は、組み合わせるKとほぼ同じ熱起電力特性を持たせた線で、基準接点(冷接点)を計器の端子台まで実質的に引き延ばす役目です。配線材の選び方も、「基準接点をどこに置くか」という同じ問題の一部です。Kに銅線をつなぐと、その継目そのものが意図しない熱電対になってしまうからです。
この構造は、規格の記号が「性能そのもの」ではなく「定義された前提の束」を指すという点で、他の記号と似ています。たとえばLANケーブルの CAT6Aが保証するのは500MHzという帯域までで、通信速度そのものには及びません。SDカードの V30は最低書き込み速度という一条件の記号です。Kも同じで、「クロメルとアルメル」「0℃基準の熱起電力表」「許容差クラス」という前提の束の名前です。記号を性能と読み替えた瞬間に、前提が落ちます。
もうひとつ、クラス1・2・3を「上下関係」と読まないほうがよいです。クラス1のほうが許容差は小さいですが、各クラスは適用温度範囲や用途の想定が違います。防水記号のIPX7とIPX8が単純な上下ではないのと同じで、クラスは「どの条件でどれだけの幅を保証するか」を分けた区分です。単純な優劣の階段とは異なります。低温側はクラス3、といった住み分けがあります。
補償導線の色も、記号の前提が規格と年版で動く例です。K用補償導線は、現行の JIS C 1610:2012(IEC 60584-3:2007に整合)ではシースが緑、+が緑、−が白です。この JIS C 1610:2012 の附属書JA(種類の記号及び表面被覆の色別の変遷)には、K用が1981年改正時には青、1995年改正時に緑へ変わったと記されています。米国のANSI(MC96.1)では、同じKでも外被が黄色です。同じ「K用」でも、手元の被覆の色は、どの規格・どの年版に従った製品かで変わります。色だけで極性や種類を決め打ちできません。
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| JIS C 1610:2012(現行) | K:外被 緑/+ 緑/− 白 | IEC 60584-3:2007に整合 |
| JIS C 1610(1981年改正時) | K用は青(→1995年改正時に緑へ) | 現行 JIS C 1610:2012 の附属書JA(種類の記号及び表面被覆の色別の変遷)に、K用が1981年改正時は青、1995年改正時に緑へ変わったと記載。当サイトは1981年版の規格本文そのものには到達していないが、この変遷は現行版の附属書JAで確認した |
| IEC 60584-3:2007(JIS C 1610:2012が整合) | K:外被 緑/+ 緑/− 白 | 補償導線の色別はIEC 60584-3が規定。現行JIS C 1610:2012がこれに整合しており、色別はJIS本文で確認した |
| ANSI MC96.1(米国) | K:外被 黄/+ 黄/− 赤 | 同じKでも黄色 |
あなたの条件ならこう読み替える
この記事は、K という記号がどう定義されているかを読むためのものです。どの熱電対を選ぶか、どのクラスを買うかという判断はここでは書きません。書けるのは、「Kの値はクロメルとアルメルという材料と、基準接点0℃という前提で決まっている。あなたの現場は、その前提のここが違う」という一点までです。表示温度の背後には、材料・0℃基準・冷接点補償が畳み込まれています。記号を材料まで開いて読んでおくと、熱電対の早見表で数字を引くときも、その数字がどの前提の上に立つのかを見失わずに済みます。
この数字について、よく調べられている疑問
いいえ。Kは+脚クロメルと−脚アルメルという金属の組み合わせを指す記号で、温度の高さや精度の高さを表すものではありません。R・S・Bなど他の記号も、それぞれ別の金属の組み合わせを表しています。同じ被測定温度でも、組み合わせが違えば発生する熱起電力の値は変わります。
直接は測っていません。熱電対が発生させるのは、測温接点と基準接点(冷接点)の温度差に対応した電圧です。基準接点を0℃に保った状態の熱起電力が規準表の値なので、実機では基準接点付近の温度を別に測り、その分を足し込む冷接点補償を行って表示温度を求めています。
どちらもK熱電対に組み合わせる補償導線ですが、心線の材質が異なります。Xは熱電対と同じ材質を使う延長形、Cは異なる材質で熱起電力特性を合わせる補償形です。JIS C 1610:2012ではKX・KCA・KCBが規定されており、記号によって適用温度範囲や許容差の扱いが変わります。
この記事の限界
- 当サイトは JIS C 1602:2015 と IEC 60584-1:2013 の原典本文(いずれも有償)そのものには到達していない。JISについては公開転載サイトの本文を、IECについては発行元IECの公式刊行物ページを読んで裏を取った。
- K熱電対のクラス3の許容差は、JIS C 1602:2015(規格本文の転載・表2)で −167〜+40℃:±2.5℃、−200〜−167℃:±0.015|t| と確認した。汎用の精度早見表には別の数値を載せるものもあるが、クラス3の許容差は熱電対のタイプや規格年版で異なるため、K・当該年版の表と突き合わせて読むのが確実である。
- 各クラスの上限温度(クラス1で約1000℃、クラス2で約1200℃という値)は複数のメーカー資料が一致するが、IEC原典本文では当サイトは確認できていない。
- 補償導線のIEC系の導体色について、シース緑・+緑・−白とする資料と、+白・−赤とする資料があり、完全には突き合わせられていない。実配線では現物の規格表記を確認する前提で読んでほしい。
- ゼーベック係数「約41μV/℃」は常温付近の代表値で、温度によって変化する。単一の定数ではない。
- JISの常用限度・過熱使用限度は素線径によって変わる。「−200〜+1200℃」のような単一の使用温度範囲は、規格が一つに定めた数字ではなく、条件つきの目安である。
出典
- JIS C 1602:2015 熱電対/ 日本規格協会 / 日本産業標準調査会 / 2026-07-15 確認
- IEC 60584-1:2013(刊行物ページ)/ IEC / 2026-07-15 確認
- 補償導線の種類と記号(基礎知識)/ 山里産業 / 2026-07-15 確認
- 熱電対・補償導線(規準熱起電力表)/ 岡崎製作所 / 2026-07-15 確認
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