SDカードの「V30」と「U3」は同じ30MB/s——1枚に速度記号が3つ並ぶ理由
SDカードの表面に「V30」と「U3」が並んでいることがあります。この2つは、どちらも最低書込速度 30MB/s のことです。同じ数字を指しています。片方が上位というわけでも、足し合わされるわけでもありません。
根拠は、カード内部のレジスタ定義にあります。SD Association(SDA)が公開している SD Specifications Part 1 Physical Layer Simplified Specification の Version 6.00(2017年4月10日)を開いてみます。SD Status の UHS_SPEED_GRADE フィールドは、値 3h を「30MB/sec and above」と定義しています。VIDEO_SPEED_CLASS フィールドは、値 30(1Eh)を Video Speed Class 30 と定義し、「Video Speed Class 6 supports at least 6MB/s」という読み方の例を添えています。V30 は 30MB/s 以上、U3 も 30MB/s 以上。同じ床を、2つの規格が別の名前で置いているだけです。
資料には何が書かれているか
SD Specifications Part 1 Physical Layer Simplified Specification Ver.6.00|資料の記述(要旨)速度クラスの章(§4.13)は、3つの方式を並記することから始まる。Speed Class(Class 2/4/6/10)、UHS Speed Grade(1 と 3)、Video Speed Class(6/10/30/60/90)である。仕様書は続けて、Version 4.20 以前は Speed Class 方式がカードにとって必須で UHS Speed Grade 方式が任意だったが、この版では3つの方式すべてが任意(optional)になったと書いている。3つは世代交代した後継ではなく、並存している独立した方式である。
§3.4 は Speed Class を「カードの最低性能を示す」ものと定義しています。Class 2 は 2MB/sec 以上、Class 4 は 4MB/sec 以上、Class 6 は 6MB/sec 以上(いずれも Default Speed モード)、Class 10 は 10MB/sec 以上(High Speed モード)です。ここに注記がひとつ付いています。性能の単位 MB/sec は 1000×1000 バイト/秒ですが、データ量としての 1MB は 1024×1024 バイトです。バス速度はクロック周波数で決まるので十進、記憶容量はメモリ境界で決まるので二進。同じ「MB」という綴りが、1つの文書の中で2つの意味を持っています。
UHS Speed Grade は、呼び名が場所によって変わります。カードに刻まれた記号は「U3」で、SDA の一般向けページはこれを UHS スピードクラスと呼びます。ですが仕様書の本文とレジスタ定義は、一貫して UHS Speed Grade(速度グレード)と書いています。Grade 0 が 10MB/sec 未満、Grade 1 が 10MB/sec 以上、Grade 3 が 30MB/sec 以上です。同じものが、カードの表と仕様書の中とで違う名前で呼ばれています。
速度クラスとは別に、もうひとつの軸があります。バスインターフェースです。Version 6.00 の Table 3-6 は、UHS-I カードのバス速度モードを並べています。Default Speed が 12.5MB/s(25MHz・3.3V)、High Speed が 25MB/s(50MHz・3.3V)、SDR50 と DDR50 が 50MB/s、SDR104 が 104MB/s(208MHz・1.8V)。UHS-I の上限は 104MB/s です。SDA のバス速度の解説ページによると、UHS-II は第2列のピンと低電圧差動信号を使い、全二重 156MB/s・半二重 312MB/s に達します。UHS-III は 312/624MB/s、SD Express は PCIe と NVMe を用いて最大 3940MB/s です。これらはすべて「最大」の値で、速度クラスの「最低」とは測っている向きが逆です。
定義・試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 測定対象 | 書込性能 Pw(シーケンシャル書込) 一次資料で確認 | 測定の枠組みは方式ごとに異なる。Video Speed Class は AU を SU(Sub Unit)に分けて測り、旧来の Speed Class とは単位が違う |
| Class 2 / 4 / 6 | 2 / 4 / 6 MB/s 以上 一次資料で確認 | Default Speed モード(バス上限 12.5MB/s)での値 |
| Class 10 | 10 MB/s 以上 一次資料で確認 | High Speed モード(バス上限 25MB/s)での値 |
| U1 / U3 | 10 / 30 MB/s 以上 一次資料で確認 | 仕様書上の名称は UHS Speed Grade 1 / 3。UHS-I(SDR50・DDR50)以上のバスモードが前提 |
| V6 / V10 / V30 / V60 / V90 | 6 / 10 / 30 / 60 / 90 MB/s 以上 二次資料で確認 | 速度値は Table 4-54・4-62 で確認。必須バス(V30=UHS、V60・V90=UHS-II 以上)は一次資料の Table 4-68 を判読できず、SD Association の公開ページに依拠 |
| MB/s の定義 | 1 MB/s = 1,000,000 バイト/秒 一次資料で確認 | 一方、データ量の 1MB は 1,048,576 バイト。単位の定義が違う |
| FAT 更新の許容時間 | 平均 100ms / 最大 750ms 一次資料で確認 | Class 2〜10 で共通(Table 4-62)。速度クラスは書込速度だけでなく応答時間も縛る |
| 読出性能 Pr の下限 | Class 10 で 10 MB/s 以上 一次資料で確認 | Table 4-62 は Pw・Pm・Pr の3つを規定している。書込だけの規格ではない |
| 前提となるフォーマット | SD ファイルシステム(File System Specification Ver.3.00) 一次資料で確認 | 仕様書は「このファイルシステムで初期化されたカードにのみ適用できる」と書いている |
| ホスト側の条件 | ホストとカードが同じ速度クラス方式を実装していること 二次資料で確認 | 記号の組み合わせが食い違うと、同じ 10MB/sec 表記でも期待した書込速度にならない。SD Association の解説ページの記述による |
記号が3つ並ぶ理由を読み解く
3つの記号が1枚のカードに並ぶのは、そのカードが3つの方式に適合しているからです。それ以上の意味はありません。Speed Class は 2006年、UHS Speed Grade は 2010年と2013年、Video Speed Class は 2016年に、それぞれ別の必要から追加されました。そしてどれも廃止されていません。 新しい方式が古い方式を置き換えたのではなく、上に積み重なってきました。当サイトが読んだ Ver.6.00 の §4.13 が並記するのはこの3方式で、E クラスは出てきません。ただ、SD Association の現行の速度クラス解説ページは、これに SD Express Speed Class(E150・E300・E450・E600)を加えた4系統を挙げています。E クラスは SD Express(NVMe)バス専用の上位系統です。当サイトはその最低速度の定義値までは確認できていませんが、Class10・U3・V30 が置く 30MB/s の床とは別の階層にあります。だから 30MB/s という同じ床に、U3 と V30 という2つの名前が付いています。記号が3つ並んでいるのは、3つの規格すべてに適合していることの表明で、速さの証明が3重になっているわけではありません。IPX7 と IPX8 が上下関係ではなく別の試験を指しているのと、構造がよく似ています。
ただし、V30 と U3 が「まったく同じもの」かというと、そこは慎重に読む必要があります。値は同じ 30MB/s でも、測り方の枠組みが違います。Video Speed Class は AU(Allocation Unit)を SU(Sub Unit)に分け、SU ごとに書込時間を測ります。ストリーム記録を前提に、CMD20 という制御コマンドでホストがカードに「これから録画を始める」「この AU を空けておけ」と伝える手順まで規格に含まれています。Video Speed Class では CMD20 のサポートがホストにもカードにも必須です。一方、旧来の Speed Class では CMD20 は任意です。同じ 30MB/s でも、それを守らせるための約束事の量が違います。
見落としやすいのが、ホストとカードの組み合わせです。SDA の解説ページには、こう書かれています。ホストとカードで異なるクラス記号の組み合わせになった場合、たとえ同じ 10MB/sec を示す表記であっても、期待した書込速度は得られない、と。速度クラスはカード単体の属性ではなく、ホストとカードのあいだの取り決めです。カードが V30 を名乗っても、機器が旧来の Speed Class しか実装していなければ、その組み合わせでは V30 という記号は何も保証しません。※ カードに印刷された数字は、相手の機器がいて初めて意味を持ちます。
同じことがフォーマットにも言えます。仕様書の §4.13.1.8.3 は、この規定が「File System Specification Version 3.00 が定める SD ファイルシステムで初期化されたカードにのみ適用できる」と明言しています。速度クラスは AU という物理境界を前提に組み立てられていて、その境界とファイルシステムの配置が噛み合っていることが条件です。※ カードを別の方法で初期化した時点で、規格が想定した前提から外れます。
バスインターフェースは、さらに別の話です。U3 のカードでも、挿した機器が UHS-I までしか対応していなければ、転送の上限は SDR104 の 104MB/s で決まります。UHS-II の 312MB/s は、カードにも機器にも第2列のピンとその回路がなければ出ません。速度クラスは床、バスは天井です。この2つを混ぜて読むと、カードのどの数字も説明できなくなります。
パッケージに躍る「最大◯MB/s」は、たいていこのどちらでもありません。キオクシアの製品表は「最大読出速度/最大書込速度(MB/s)」として2つの数値を分けて併記しています。読出と書込は別の数字だ、と表の見出しが言っています。パナソニックが2017年に発表した UHS-II の SDXC カードは、読出最大 280MB/秒、書込最大 250MB/秒、そしてビデオスピードクラス V90 の最低保証 90MB/秒という3つの数字を同時に持っていました。同じカードに、U3 と CLASS10 の記号も付いています。1枚のカードの上で、最大値と最低値と、3系統の記号が同居しているわけです。LANケーブルの「CAT6A」が保証しているのは500MHzという周波数帯域であって10Gbpsという速度ではないのと同じで、記号が答えている問いと、こちらが知りたい問いは、しばしば食い違います。
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| SD Association | 速度クラスは「規格が定めた条件下での最低シーケンシャル書込性能」を保証する | ホストとカードの記号が食い違うと、同じ数値表記でも期待した書込速度は得られないと明記 |
| SanDisk | 速度クラスは最低保証速度。UHS-I は最大104MB/s、UHS-II は最大312MB/s | クラスは最低値、バスは最大値、と役割を分けて記載している |
| キオクシア | 「最大読出速度/最大書込速度(MB/s)」を2つに分けて併記 | 1MB/s を 1,000,000 バイト/秒として計算すると注記。仕様書の MB/sec の定義と一致する |
| パナソニック | 読出 最大280MB/秒・書込 最大250MB/秒・V90(最低保証90MB/秒)・U3・CLASS10 | 2017年発表のUHS-II SDXCカード。1枚に3系統の記号と2種類の「最大」が載る実例 |
あなたの条件ならこう読み替える
当サイトが読んだのは簡易仕様書の Version 6.00(2017年)である。SD Association が現在配布している Part 1 Physical Layer Simplified Specification は Version 9.10(2023年12月1日)で、その本文は読んでいない。6.00 に書かれた条件が現行版でも同じかどうかは確認できていない。また簡易仕様書は完全版の部分集合であると SDA 自身が明記しており、章によっては本文が白紙になっている。
読み替えの要は、ひとつだけです。カードの記号は、そのカードが「どの規格の、どの試験条件に適合したか」を述べています。 手元の機器で何MB/s出るかを述べているわけではありません。V30 と U3 が同じ 30MB/s を指すのは、規格が2つあって、たまたま同じ床を選んだからです。カードが2倍速いからではありません。
そして規格が置いた床は、あくまで規格が置いた条件の上に成り立ちます。SD ファイルシステムで初期化されていること、ホストが同じ方式を実装していること、必要なバスモードが使えること。この3つが揃ってはじめて、30MB/s という数字は約束として立ちます。条件が違えば、数字は同じ顔をしたまま、別のことを意味しはじめます。
この数字について、よく調べられている疑問
どちらも最低書込速度 30MB/s を指しており、上下関係ではない。SD Association の仕様書では、カードのレジスタの UHS_SPEED_GRADE フィールドの値 3h が「30MB/sec 以上」、VIDEO_SPEED_CLASS フィールドの値 30 が Video Speed Class 30 と定義されている。別々の規格が同じ床を別の名前で置いている。
速度クラスの規格が複数系統並存しているから。Speed Class、UHS Speed Grade、Video Speed Class が順に追加され、いずれも廃止されていない。当サイトが読んだ Ver.6.00 の §4.13 はこの3方式を並記する。1枚のカードが3つすべてに適合すれば記号は3つ並ぶ。なお SD Association の現行の速度クラス解説ページは、これに SD Express Speed Class(E150・E300・E450・E600)を加えた4系統を挙げるが、E クラスは SD Express(NVMe)バス専用で、Class10・U3・V30 が置く 30MB/s 帯とは別の階層にある。記号の数はカードの速さとは関係しない。
測っている対象が違う。「最大◯MB/s」は多くの場合読出速度で、しかも上限値である。速度クラスは書込の下限値で、規格が定めた測定条件下での保証だ。パナソニックのV90カードは読出最大280MB/秒・書込最大250MB/秒・最低保証90MB/秒という3つの数字を同時に持っている。
この記事の限界
- 読んだのは簡易仕様書(Simplified Specification)の Version 6.00(2017年4月10日)。SD Association が現在配布している Part 1 Physical Layer Simplified Specification は Version 9.10(2023年12月1日)で、当サイトはそちらの本文を読んでいない。6.00 に書かれた数値や条件が9.10でも同一かどうかは確認できていない。
- 簡易仕様書は完全版の部分集合であると SD Association 自身が明記しており、完全版は会員向けで公開されていない。当サイトが読めたのは公開された部分だけで、章によっては本文が白紙になっている。
- PDFをテキスト化して読んだため、Table 4-68(ビデオスピードクラスごとに必須となるバスモードの一覧)は列と値の対応が判読しきれなかった。V30 が要求するバスについては、SD Association の公開ページにある「V30 は UHS バス」という記述に依拠している。
- Version 6.00 の改訂履歴には「Video Speed Class VSC4/6/10/30/60/90」と書かれているが、本文の Table 4-54 に VSC4 は定義されていない。この食い違いの理由は確認できていない。
- SDUC(2TB超〜128TB)と SD Express スピードクラス(E150/E300/E450/E600)は Version 6.00 より後の版で定義されたもので、SD Association の公開ページで確認した。該当する仕様書の本文は読んでいない。
- アプリケーションパフォーマンスクラス(A1/A2)が Version 6.00 で追加されたことは改訂履歴で確認したが、その IOPS の具体値は本文で確認していない。
- 当サイトは試験設備を持たない。カードの実速度は測定していない。本文の数値はすべて資料に書かれていた値である。
出典
- SD Specifications Part 1 Physical Layer Simplified Specification Version 6.00/ SD Card Association / 2026-07-15 確認
- Speed Class/ SD Association / 2026-07-15 確認
- Bus Speed(Default Speed/High Speed/UHS/SD Express)/ SD Association / 2026-07-15 確認
- Capacity(SD/SDHC/SDXC/SDUC)/ SD Association / 2026-07-15 確認
- Specifications and Compatibility for SD/SDHC/SDXC Memory Cards/ SanDisk / 2026-07-15 確認
- UHS-II、ビデオスピードクラスV90対応のSDメモリーカードを発売/ パナソニック / 2026-07-15 確認
訂正履歴
- 2026-07-16速度クラスの「系統数」を見直した。当サイトが読んだ Ver.6.00 の §4.13 は Speed Class・UHS Speed Grade・Video Speed Class の3方式を並記するが、SD Association の現行の速度クラス解説ページはこれに SD Express Speed Class(E150・E300・E450・E600)を加えた4系統を挙げている。タイトルと本文・FAQ を「1枚に3つの記号(Class10・U3・V30)が並ぶ理由」という範囲に絞り、4系統目の存在を本文・FAQ に明記した。
- 2026-07-16図版の確信度を本文・限界の記述に揃えた。TestConditions の「V6〜V90 の必須バス」行は、一次資料の Table 4-68 を判読できず SD Association の公開ページに依拠しているため confirmed から secondary へ、「ホストとカードが同じ方式を実装」行も SDA の解説ページ由来のため secondary へ変更した。Timeline の「2013 Version 4.10(UHS-II 追加)」は UHS-II 自体がフル規格 SD 4.0(2011年)で先に導入された点を追記して secondary へ、「2023 Version 9.10」は当サイトが読んでいない版で SDA のダウンロード一覧に依拠するため secondary へ変更した。
- 2026-07-16lineage の測定条件を修正した。SU(Sub Unit)は Video Speed Class 固有の測定単位で、U3(UHS Speed Grade)には当てはまらない。「SU単位で測る」という一律の記述を外し、測定の枠組みが方式ごとに異なることを示した。
この記事を書いた人
Yamachiki / 運営・調査・執筆X @Yamachikichan1
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