エンジンオイルの「5W-30」— Wは Winter で、5Wと30は別々の試験の値

カタログの数字
5W-30
根拠となる規格
SAE J300(Engine Oil Viscosity Classification)
その数字を作った試験条件
5W=低温の見かけ粘度、30=100℃の動粘度。別の試験の値が並んでいる
前提が決まった年
1911
「5W-30」という数字の家系図。カタログの表示から、それを定めた規格と試験条件までを辿ったもの。

エンジンオイルの「5W-30」は、ひとつの数字に見えて、別々に決まった2つの値の組です。前半の「5W」は低温での見かけ粘度、後半の「30」は高温での粘度です。この2つは別の装置、別の温度、別のせん断条件で測っています。同じラベルに並んでいるだけで、片方から他方は導けません。

「W」は Winter の頭文字です。Weight(重さ)ではありません。この読み違いは多いのですが、規格では一貫して冬、つまり低温側の等級として扱っています。

粘度分類を定めているのは SAE International の SAE J300 です。日本にも、同じ SAE 粘度グレード(5W や 30 といった刻み)を使う JIS K 2010「自動車エンジン油粘度分類」(英名 Engine oil viscosity classification)があります。

当サイトが読めたのは規格票原本ではなく、条文を転載する第三者サイト(kikakurui.com)が掲げる1993年版です。そこには国際規格 ISO/DIS 10369 を翻訳して制定された旨と、参考注記「J300 とは、SAE 規格番号のことである」が記されています。粘度分類の出どころは SAE J300 で、日本の JIS や国際規格はこれを採用・対応する形です。

SAE Mobilus の書誌ページで確認できた内容です。正式表題は Engine Oil Viscosity Classification、文書種別は Recommended Practice(推奨実施要領)、最新改訂は2024年5月9日、担当は Fuels and Lubricants TC 1 Engine Lubrication。同じページに初版発行日として1911年6月1日が記載されています。100年以上前から続く分類の、いまの姿が5W-30という表記です。

資料には何が書かれているか — 5Wと30は別々の試験

J300 の規格票本文は有償で、当サイトは購入していません。読めるのは書誌ページと、公開されている解説・技術資料です。そこで粘度分類表の中身は、ENEOSの「石油便覧」が掲載する SAE J300(2021年版)の表と、英語版Wikipediaが掲げる同じ表を突き合わせ、値が一致することを確かめて書いています。

SAE Mobilus J300_202405 書誌ページのスコープ(当サイトによる要旨)|資料の記述(要旨)(要旨)SAE J300 は、エンジン潤滑油の粘度限界をレオロジー的な分類方法によって定めるもので、油のそれ以外の性状は扱わない。文書種別は Recommended Practice。改訂 2024年5月9日。

低温側の「5W」は、2つの試験の両方に通って初めて名乗れます。ひとつは CCS(コールドクランキングシミュレータ)、ASTM D5293。もうひとつは MRV(ミニロータリービスコメータ)、ASTM D4684。似た低温試験のようで、見ているものが違います。

ASTM D5293-20 のスコープ(当サイトによる要旨・訳)|資料の記述(要旨)(要旨)-10℃から-35℃の範囲で、せん断応力およそ5万〜10万Pa、せん断速度およそ10⁴〜10⁵ s⁻¹という条件下でエンジン油の見かけ粘度を測る。この見かけ粘度は低温でのエンジンのクランキング(始動時のクランク回転)と相関する。ただし、エンジンのオイルポンプおよび油路への低温での流動性を予測するのには適さない、と明記されている。
ASTM D4684-20a のスコープ(当サイトによる要旨・訳)|資料の記述(要旨)(要旨)45時間を超える時間をかけて制御された速度で冷却し、最終温度-10℃〜-40℃でエンジン油の降伏応力と見かけ粘度を測る。せん断応力は525 Pa。低温でオイルがゲル状の構造をつくり、ポンプが油を吸い込めなくなる現象を予測するための試験で、市場で吸込不良を起こした油を試験室で不合格と判定できたと記されている。

CCS が見ているのは「セルモーターがクランクを回せるか」、MRV が見ているのは「回った後にオイルポンプが油を吸えるか」です。D5293 は自分で「ポンプへの流動性の予測には適さない」と断っています。これが試験を分けている理由です。だから J300 の W 等級には、温度の違う2行が並びます。5W なら CCS が-30℃、MRV が-35℃。0W なら-35℃と-40℃。10W なら-25℃と-30℃。等級ごとに試験温度そのものが動きます。

高温側の「30」は、100℃の動粘度(ASTM D445、単位 mm²/s)で範囲が決まります。そこに150℃・高せん断の HTHS粘度 の下限が重なります。HTHS を測る方法のひとつが ASTM D4683 です。テーパードベアリングシミュレータという装置を使い、150℃、せん断速度 1.0×10⁶ s⁻¹ で測ります。この条件は、過酷な運転条件下のエンジン軸受で油膜を担う粘度に関係するとされています。

定義・試験条件の表

当サイトが確認できた粘度分類表(SAE J300 2021年版)に基づく、5W-30の内訳です。5W の3行と、30 の2行は、すべて別の試験です。

試験条件の項目規定されている値・条件注記
5W | 低温クランキング粘度(CCS)-30℃で 6,600 mPa·s 以下 二次資料で確認ASTM D5293。始動時にクランクが回るか
5W | 低温ポンピング粘度(MRV)-35℃で 60,000 mPa·s 以下 二次資料で確認ASTM D4684。ポンプが油を吸えるか
5W | 100℃動粘度の下限3.8 mm²/s 以上 二次資料で確認W等級にも100℃側の下限がある
30 | 100℃動粘度9.3 mm²/s 以上 12.5 mm²/s 未満 二次資料で確認ASTM D445
30 | HTHS粘度150℃で 2.9 mPa·s 以上 二次資料で確認せん断速度 10⁶ s⁻¹。ASTM D4683 ほか
CCS のせん断条件約5万〜10万Pa/約10⁴〜10⁵ s⁻¹ 一次資料で確認ASTM D5293 のスコープ本文で確認
MRV の冷却条件45時間超をかけて徐冷 一次資料で確認ASTM D4684 のスコープ本文で確認
「5W-30」を構成する5つの数値(SAE J300 2021年版の表による)

5つの数字を、どう読むか

5W-30 を見て「柔らかいオイル」「硬いオイル」と一言で言えないのは、この表を見れば分かります。低温側の3行と高温側の2行は、測っている温度が最小130℃から最大185℃も離れています。装置も違いますし、かけているせん断も4桁から6桁ほど違います。5W-30 は「ひとつの粘度」ではなく、「5つの合格判定の束」です。

とくに CCS と MRV の関係が面白いところです。どちらも低温の試験ですが、失敗の仕方が違います。CCS は「セルは回るか」を見るので、比較的高いせん断で短時間の話です。MRV は「45時間かけてゆっくり冷やす」試験です。寒い夜に駐車したまま油がじわじわ冷えていく間に、ワックスが結晶化してゲルをつくるかどうかを見ます。急に冷やしても再現できない現象を、45時間かけて再現しています。エンジンがかかった瞬間に油が届かない故障は、CCS だけでは捕まえられません。だから試験が2つあります。

同じ構図は他の規格にもあります。「IPX7」と「IPX8」が上下関係ではなく別の試験であるのと同じで(/electric/ip-rating/)、CCS と MRV も、片方が厳しくて片方が緩いのではなく、別のことを聞いています。5W という1つのラベルの裏に、独立した2つの問いがあります。

高温側も同じです。「30」は 100℃の動粘度が 9.3 以上 12.5 未満という帯ですが、それだけでは軸受の油膜の話になりません。実際の軸受は150℃近くまで上がり、せん断速度は10⁶ s⁻¹の桁になります。粘度指数向上剤という高分子を入れた油は、こうした高せん断下で一時的に粘度が落ちます。だから J300 は、100℃の静かな動粘度とは別に、150℃・高せん断での下限(30 なら 2.9 mPa·s)を置いています。「30」というラベルは、静かな100℃と荒れた150℃の、両方の関門を通った印です。

ここは、刻印された数字と規格が定める最小値がずれるボルトの強度区分(/mechanical/bolt-grade/)と似た読み方が要ります。ラベルの数字は、それ自体が物理量とは別物で、ある試験条件のもとでの合格帯につけた名前です。

規格が言っていないことも大事です。J300 は、書誌ページのスコープが明言するとおり、粘度限界だけを分類します。清浄性も、酸化安定性も、摩耗防止性も、この規格は扱いません。それらは ILSAC や API、日本なら JASO の規格が別に定めています。5W-30 という表記は、そのオイルの品質の証明書ではありません。

あなたの条件ならこう読み替える

手元の「5W-30」を、どの数字で読むべきか
冬に-30℃を下回る土地で使う
5W の根拠は CCS が-30℃、MRV が-35℃という試験点にあると理解する
W等級は「その温度での上限値」であって、それより低い温度での挙動は等級からは読み取れない。試験点の外側は規格が語っていない領域になる
高速走行・高負荷・油温が上がる使い方が多い
効くのは「30」側。ただし100℃の動粘度だけでなく、同じ「30」に含まれる150℃・高せん断のHTHS下限(2.9 mPa·s)も見る
ASTM D4683 の意義の記述は、150℃・10⁶ s⁻¹という条件が過酷な運転下の軸受の流体潤滑に関係するとしている。100℃の動粘度だけでは、そこは説明できない
指定が 0W-20 の車に 5W-30 を入れてよいか知りたい
それは J300 の管轄外である。J300 は粘度の分類であって、どのエンジンに何を入れるかは定めていない
適合を決めているのは車両側(エンジン設計)であって、J300 の粘度の表からは導けない

0W-20 が主流になった理由は、燃費です

日本で 0W-20 が標準的な指定粘度になった理由は、燃費です。性能が上がったからでも、オイルが進化したからでもなく、この一点に尽きます。ENEOS(当時JXTGエネルギー)の技術報告は、CO₂排出削減や燃費規制の強化を背景に、潤滑油が燃費向上に寄与する技術として注目され、日本の自動車会社が低粘度化した省燃費エンジン油の開発を積極的に進めてきた、と書いています。粘度を下げれば流体潤滑での摩擦損失が減り、燃費が上がります。これが動機です。

その結果、SAE J300 の高温側に、20 より下の等級が新設されていきました。まず2013年に SAE 16、2015年に SAE 12 と SAE 8。2019年には、日本自動車工業会と石油連盟が SAE 0W-8 と 0W-12 を対象とする品質規格 JASO GLV-1(JASO M 364:2019) を設定しました。2030年度燃費基準は、2016年度実績に対して32.4%の燃費改善を求めています。オイルの粘度は、その帳尻の一部を負っています。

1911
SAE Mobilus の書誌ページに記載された J300 の初版発行日(1911年6月1日) 一次資料で確認
2013
SAE 16 が追加される(100℃動粘度 6.1〜8.2 mm²/s、HTHS 2.3 mPa·s以上)。同じ改訂で SAE 20 の100℃動粘度下限が 5.6 から 6.9 mm²/s に引き上げられる 二次資料で確認
2015
SAE 12 と SAE 8 が追加される 二次資料で確認
2019
JASO GLV-1(JASO M 364:2019)設定。対象は SAE 0W-8 と 0W-12 一次資料で確認
2020
2030年度燃費基準が策定される(2016年度実績比 32.4% の改善) 二次資料で確認
2024
SAE J300 が改訂される(J300_202405、改訂日 2024年5月9日) 一次資料で確認
年表SAE J300 と低粘度化

低粘度化は、油膜が薄くなる方向の変化でもあります。だからこそ J300 は HTHS の下限を残し、JASO GLV-1 は摩耗防止性や低温スラッジ防止性を ILSAC GF-5/API SN 以上の水準で求めています。低粘度油は、低粘度である分、別のところで条件を積み増しています。

確認できていないこと2024年5月の改訂で表の中身がどう変わったかは、当サイトでは確認できていない。低温側に下限値の列が追加されたとする業界解説を見かけたが、SAE の一次資料で裏が取れなかったため本文には書いていない。本記事の表は2021年版に基づく。

最後に。オイルの選定と交換時期の判断は、必ず車両メーカーの指定に従い、実際の判断は有資格の整備事業者や専門機関に委ねてください。 当サイトは試験設備を持たず、適合を判断する立場にありません。この記事が書けるのは、「5W-30 という数字が、どの試験のどの条件で決まっているか」までです。粘度の帯が同じでも、あなたのエンジンがその帯のどこを必要としているかは、規格の表には書かれていません。

この数字について、よく調べられている疑問

「5W」のWは何の略か。

Winter(冬)の略で、低温側の等級を示す。重さ(Weight)ではない。W等級は0W・5W・10W・15W・20W・25Wの6段階で、それぞれに決められた温度でのCCS粘度の上限とMRV粘度の上限があり、数字が小さいほど低い温度で試験されている。

5W-30の「5W」と「30」は同じ試験で決まるのか。

別の試験で決まる。5Wは低温側で、CCS(コールドクランキングシミュレータ)とMRV(ミニロータリービスコメータ)による見かけ粘度。30は高温側で、100℃の動粘度と、150℃・せん断速度10⁶ s⁻¹のHTHS粘度。1本のオイルに、独立した2組の試験結果が並んでいる。

5Wは何℃で試験されるのか。

当サイトが確認した粘度分類表では、5WのCCS粘度は-30℃で6,600 mPa·s以下、MRV粘度は-35℃で60,000 mPa·s以下と規定されている。試験温度は等級ごとに異なり、0Wなら-35℃と-40℃、10Wなら-25℃と-30℃になる。

0W-20が増えたのはなぜか。

燃費のためである。ENEOSの技術報告は、CO₂排出削減や燃費規制の強化を背景に、日本の自動車会社が低粘度化した省燃費エンジン油の開発を進めてきたと書いている。SAE J300には2013年に16、2015年に12と8という、さらに低い高温側等級が追加されている。

この記事の限界

  • SAE J300 の規格票本文は有償であり、当サイトは購入していない。本文は読んでいない。本記事の数値は、ENEOS「石油便覧」が掲載する SAE J300(2021年版)の粘度分類表と、英語版Wikipedia が掲げる同表を突き合わせて一致を確認したものであり、規格票そのものからの引用ではない。
  • JIS K 2010 について当サイトが確認できたのは、条文を転載する第三者サイト(kikakurui.com)が掲げる1993年版であり、正式名称・規格番号・SAE粘度グレードの体系・ISO/DIS 10369 を翻訳した旨・「J300とはSAE規格番号のことである」との参考注記まで。日本規格協会が頒布する規格票原本は購入しておらず、1993年版から改正されているかどうかは確認できていない。
  • SAE Mobilus の書誌ページで確認できたのは、規格番号・正式表題・文書種別・改訂日(2024年5月9日)・担当委員会・初版発行日(1911年6月1日)とスコープの要旨までで、2024年改訂で表がどう変わったかは確認できていない。低温側に下限値を設ける列が追加されたとする業界解説を見かけたが、一次資料で裏が取れていないため本文には書いていない。したがって本記事の表の数値は2021年版に基づく。
  • 「J300」という番号が付与された年、W等級・非W等級が現在の刻み方になった経緯については、当サイトが確認できた範囲では一次資料に到達できなかった。
  • HTHS粘度の試験法は ASTM D4683(テーパードベアリングシミュレータ)のほかにも複数が J300 で認められているとされるが、どの方法が何番で認められているかの一覧は、当サイトが確認できた範囲では確認できなかった。
  • 5W-30 という表示が、当該のオイルが具体的にどのエンジンで使えるかを意味するものではない。J300 は粘度の分類であって、適合の判断には踏み込んでいない。

出典

  1. J300_202405 Engine Oil Viscosity Classification/ SAE International / 2026-07-15 確認
  2. JIS K 2010:1993 自動車エンジン油粘度分類(条文転載ページ)/ kikakurui.com(JIS条文転載) / 2026-07-16 確認
  3. 石油便覧 自動車用潤滑油/ ENEOS / 2026-07-15 確認
  4. ASTM D5293-20/ ASTM International / 2026-07-15 確認
  5. ASTM D4684-20a/ ASTM International / 2026-07-15 確認
  6. ASTM D4683-20/ ASTM International / 2026-07-15 確認
  7. ガソリンエンジン油新規格 JASO GLV-1/ JXTG Technical Review Vol.61 No.3(2019) / 2026-07-15 確認
  8. 品質規格「GLV-1」の設定について/ 日本自動車工業会 / 2026-07-15 確認
  9. 2030年度燃費基準について/ 自動車技術会 エンジンレビュー / 2026-07-15 確認

訂正履歴

この記事に訂正はありません。 誤りを見つけた場合はお問い合わせからご指摘ください。 訂正した場合は、日付とともにこの欄に記録します(訂正履歴の一覧)。

この記事を書いた人

Yamachiki / 運営・調査・執筆X @Yamachikichan1

規格・告示・業界基準が定める数値について、その出どころと試験条件を一次資料まで遡って記録しています。記事に書いたすべての数値には、根拠となる資料の所在(資料名・規格番号・発行者・URL・確認日)を添えています。確認できたことと、確認できなかったことを分けて書くことを、このサイトの基本方針としています。

運営者情報調査と検証の手順編集方針