A4はなぜ210×297mmなのか——ISO 216とJIS P 0138、1:√2という設計
A4の210×297mmは、紙の都合で決まった数字ではありません。先に決まっているのは寸法ではなく、面積と比です。面積を1m²、辺の比を1:√2とした長方形がA0(841×1189mm)で、これを4回半分にするとA4になります。ISO 216:2007 の箇条4.3は、A列の基本サイズA0の面積を1m²と置き、x×y=1m²と y:x=√2:1 の2本の式を連立させて、x=0,841m、y=1,189m を導いています。寸法は、この計算から出てきた結果にすぎません。
ただし、この計算はきれいに割り切れません。面積1m²・辺比1:√2を厳密に解くと、A0は840.896×1189.207mmになります。規格はこれをmmに丸めて841×1189mmとしました。掛け算すると999,949mm²で、1m²には51mm²だけ足りません。A4の210×297mmがきりのいい見た目になっているのは、この端数を各段階で切り捨てたためです。
資料には何が書かれているか
ISO 216:2007 箇条4.1・4.3・4.4(プレビューPDF)|資料の記述(要旨)この寸法体系は「半裁の原則」に立つ。各サイズは、ひとつ上のサイズを短辺に平行に2等分して得られ、隣り合う2つのサイズの面積比は2:1になる。各系列のすべてのサイズは互いに相似であり(相似の原則)、この2つの要求から辺の比 y:x = √2:1 = 1,414 が導かれる。A列の基本サイズA0は面積1m²と定義され、x=0,841m、y=1,189m となる。副系列であるISO-B列は、A列の隣り合うサイズの幾何平均を順に置くことで得られる。
ここは規格の順序が大事です。1:√2を「都合がいいから」選んだのではありません。相似を保ったまま半分にできる比が、そもそも1:√2しかないのです。長辺を半分にしても形が変わらない長方形を探すと、比は√2に決まります。ISO 216 は図3でこれを「比例の原則」として示し、辺は正方形の対角線との比に等しいと説明しています。
丸め方は、表から逆算できます。A0の841×1189から始めて、長辺を半分にして小数点以下を切り捨てる。この操作を繰り返すと、1189÷2=594.5→594、841÷2=420.5→420、594÷2=297、420÷2=210と進み、ISO 216 表1のA0からA10までの数値が一つの例外もなく再現されます。A4の210×297mmは、切り捨ての4回目に出てくる数字です。同じ操作をISO-B列の1000×1414に施すと表2が、JIS-B列の1030×1456に施すとJISの表が、やはりそのまま再現されます。
見落としやすいのですが、ISO 216 は寸法だけでなく許容差も定めています。箇条7.1は、許容差を「そこから外れるとそのサイズとみなせなくなる範囲」と定義します。そのうえで、これは製造公差とは別物で、製造公差は用途に応じてもっと厳しくなるはずだから取引当事者間で合意せよ、とはっきり書いています。数値は3区分です。150mm以下が±1.5mm、150mmを超え600mm以下が±2mm、600mmを超えると±3mm。A4の210mmと297mmは、どちらも真ん中の区分に入ります。
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 根拠規格 | ISO 216:2007(第2版, 2007-09-15)/JIS P 0138:1998 一次資料で確認 | ISO 216:2007はプレビューPDFを実見。JISはISO 216:1975のMOD。原案作成団体(日本製紙連合会)はJSA書誌ページの記載による |
| A0の定義 | 面積 1 m²、辺の比 y:x = √2:1 = 1,414 一次資料で確認 | ISO 216 箇条4.3。寸法ではなく面積と比が定義 |
| A0の厳密解 | 840.896 × 1189.207 mm 一次資料で確認 | 丸めて841×1189mm。実面積999,949mm²(1m²に51mm²不足) |
| A4の寸法 | 210 mm × 297 mm 一次資料で確認 | ISO 216 表1。JIS P 0138 も同一 |
| 許容差(150mm超600mm以下) | ±2 mm 一次資料で確認 | A4の210mm・297mmは両方この区分。208〜212×295〜299mmもA4 |
| 許容差(その他の区分) | 150mm以下 ±1.5mm / 600mm超 ±3mm 一次資料で確認 | ISO 216 箇条7.1。JIS P 0138 も同じ3区分 |
| 許容差の性格 | 「そのサイズとみなせる範囲」であり製造公差ではない 一次資料で確認 | 製造公差は取引当事者間で個別に合意せよと規格が明記 |
| 測定雰囲気 | (23 ± 1) ℃、(50 ± 2) %RH 一次資料で確認 | ISO 216 箇条7.2 → ISO 187:2022 箇条5。熱帯では27℃/65%RHも可 |
| ISO-B列の定義 | A列の隣り合うサイズの幾何平均。B0 = 1000 × 1414 mm 一次資料で確認 | ISO 216 箇条4.4・表2 |
| JIS-B列の定義 | B0 = 1030 × 1456 mm(面積 ≈ 1.5 m²) 二次資料で確認 | B0寸法はJIS P 0138(公開転載で確認)。規格の定義文はISOと同じ幾何平均で、1.5m²基準は当サイトが公表寸法から逆算した値。ISO-B列とは別系列 |
この数字の読みどころ
この数字の面白いところは、規格が寸法を決めていない点です。決めたのは面積と比だけで、210や297という数字は誰も選んでいません。連立方程式の解を丸めたら、たまたまこうなりました。ですから「なぜ210なのか」には答えがありません。答えられるのは「なぜ1m²と1:√2なのか」という一段上の問いだけです。
1:√2が選ばれたのは、半分にしても形が変わらない唯一の比だからです。見た目の美しさで選んだわけではありません。拡大縮小のコピーを想定した、実務上の理由です。A4の原稿をA3に引き伸ばすときの倍率は、面積比の平方根で√2=141%。逆にA3をA4に縮めるなら1/√2=71%です。コピー機に「141%」「71%」のボタンが並んでいるのは、この体系のおかげです。用紙が相似でないと拡大のたびに余白の比率が変わり、この2つの倍率だけでは足りません。
面積を1m²にした効果は、もうひとつあります。紙の重さ、いわゆる「坪量」はg/m²で表すので、A0が1m²だと計算が楽になります。坪量80g/m²なら、A0が1枚80g。A4はA0の16分の1なので80÷16=5gです。実際のA4の面積は62,370mm²で、1/16m²の62,500mm²より0.2%小さく、厳密には4.99gになります。※この0.2%は、丸めの端数が最後まで残ったものです。
許容差の話にも戻ります。規格が言う±2mmは、製造公差ではありません。「208mmの紙を作ってよい」という意味ではなく、「208mmの紙が出てきても、A4という寸法系列の一員として扱ってよい」という意味です。規格が引いているのは分類の境界線で、工場の刃物の精度を指定しているわけではありません。実際の製造公差はもっと厳しく、取引当事者間で決めよ、と規格自身が書いています。※この区別は、数値だけを見ていると読み取れません。
測定条件も同じ性格です。箇条7.2は、寸法をISO 187が定める試験用標準雰囲気で測れと指示します。ISO 187:2022 の標準雰囲気は(23±1)℃・(50±2)%RHです。同規格の序文は、紙の物理的性質は水分量に左右され、その水分量は周囲の相対湿度とその履歴で決まると述べています。紙は湿気を吸うと伸び、乾けば縮みます。ですから「A4は210mm」という言い方には、「23℃・50%RHで測ったとき」という条件が暗黙で付いています。梅雨時のオフィスに置いたA4と、冬の乾いた部屋のA4は、厳密には同じ寸法ではありません。数値が測定条件から切り離されて一人歩きする構図は、LED電球の「60W形相当」やIPX7とIPX8と同じです。
B列で、日本は別の道を選んだ
A列は世界共通です。B列はそうではありません。
ISO 216 の箇条4.4は、ISO-B列を「A列の隣り合うサイズの幾何平均」と定義します。B0が入るのは、A0(841×1189mm)と2A0(1189×1682mm)のあいだ。短辺どうしの幾何平均は √(841×1189)=999.97、長辺どうしは √(1189×1682)=1414.18で、丸めて B0=1000×1414mm です。定義がA列に紐づいているので、ISO-B列はA列の隙間を埋める補助系列と考えればわかりやすいです。ISO 216 自身、B列は「A列の隣り合う2サイズの中間が必要な例外的な場合にのみ使う」と書いています。
ここでJIS P 0138 の書き方に注意してください。JISの箇条4.4も、ISOとほぼ同じ定義文を載せています。B列は「A列の隣り合う各寸法の間に幾何学的な中間値を設けることで得る」。定義の文言そのものは、ISOと変わりません。
食い違うのは、そのあとに置かれた数値の表です。JISのまえがきは、対応国際規格の補助シリーズ(ISO-Bシリーズ)を不採用とし、従来から日本工業規格で規定していたBシリーズを「JIS-Bシリーズ」として採用した、と明記しています。定義文はISOに揃えたまま、数値だけ日本独自のものを載せたわけです。
その数値が、JIS P 0138 のB0=1030×1456mmです。辺の比は 1456/1030=1.4136 でたしかに√2ですが、面積は 1.030×1.456=1.49968m²、つまり1.5m²です。面積1.5m²・辺比1:√2を厳密に解くと 1029.9×1456.5mm となり、丸めて 1030×1456。A列を1m²で作ったのと同じやり方を、1.5m²という別の基準に当てはめたものです。
その結果、日本のB列とISOのB列は3%ずれます。辺の長さの比は1030/1000=1.03。B5はJISが182×257mm、ISOが176×250mm。B4はJISが257×364mm、ISOが250×353mmで、幅7mm・長さ11mmの差が出ます。同じ「B5」「B4」でも、日本国内と国際規格では別の紙を指しているわけです。B4の書類を海外に送ったら封筒に入らない、海外のB5バインダーに国産のB5が収まらない。こうした食い違いは、この定義の差から起きます。
では、なぜ日本は1.5m²を選んだのか。ここが、今回いちばん確認しきれなかったところです。印刷業界の解説の多くは、江戸幕府の公用紙だった美濃紙の判型「美濃判」(9寸×1尺3寸=273×394mm)に由来すると説明します。ただし美濃判の273×394mmは、JISのB4(257×364mm)と一致しません。国立国会図書館のレファレンス協同データベースの事例では、司書がA列を菊判、B列を四六判に対応づけて説明していて、美濃判には直結させていません。同じ回答は、日本が1929年(昭和4年)にA列・B列を定めたこと、参照した『JISハンドブック』の新しい版からは制定の経緯を記した解説が落ちていることにも触れています。
整理すると、B列が日本独自であること、その面積が1.5m²であることは資料で確認できます。ただし1.5m²が美濃紙から来たと言い切れる一次資料には、たどり着けませんでした。広く語られている説明で、否定する材料もありません。確認できたのは「在来の紙の判型(四六判系)に寸法を寄せる必要があった」という枠組みまでです。
ISO 216 の第2版が寸法を変えなかった点も見どころです。まえがきが挙げる主な変更は、紙の繊維の流れ方向をLG(長辺が流れ方向に平行)/SG(短辺が流れ方向に平行)と表示する方法の追加だけ。1922年にドイツで決まった比率と面積が、100年を超えて数値のまま残っています。規格が改正されても、変わるのは寸法ではなく、寸法に付く条件のほうでした。
北米が別の紙を使っている
ISO 216 の箇条1には注記があり、「一部の国、とくに北米では」異なる寸法が使われていると書かれています。レターサイズのことです。
レターは8.5×11インチ、mmに直すと215.9×279.4mmです。A4より幅が5.9mm広く、長さは17.6mm短い。決め手は辺の比で、11/8.5=1.294。√2=1.414ではありません。ですからレターは半分に折っても相似形になりません。半裁を繰り返して系列を作る、という発想が最初から入っていない寸法です。
ISO 216 はこの事実を無視していません。箇条1の適用範囲に注記があり、一部の国、とくに北米では異なる寸法の裁断済みオフィス用紙が一般に使われている、それらは参考文献[1]を見よ、と書いてあります。参考文献[1]は ASTM D 3460、米国のオフィス用紙の規格です。国際規格が、自分の外側に別の体系があることを本文で認めているわけです。
なぜ米国が移行しなかったのかは、諸説あるものの、一次資料で裏付けられる説明にはたどり着けませんでした。はっきり言えるのは、A4とレターが「同じ土俵にない」ことです。A4は面積と比から計算で導いた寸法、レターはインチ由来の既成寸法。優劣を論じることはできますが、それは寸法の話ではなく、設計思想の話になります。
あなたの条件ならこう読み替える
どのサイズを使うかは、用途と相手の環境で決まります。この記事で示せるのは、210という数字がどんな条件の下で成り立っているか。面積1m²、辺比1:√2、4回の半裁と切り捨て、±2mmの許容差、23℃50%RHという測定雰囲気。ここまでです。
B列の面積基準が1.5m²である理由を、江戸期の美濃判に求める説明は広く流通しているが、一次資料では確認できなかった。国立国会図書館のレファレンス事例はB列を四六判に対応づけており、美濃判と直結させていない。この点は未確認として扱う。
A4を手に取って半分に折ってみてください。折る前と後で、長方形の形が変わりません。もう一度折っても変わりません。この一点だけが、210×297mmという数字の本当の中身です。残りはすべて、それを整数のmmに落とし込むときに出た端数の始末でした。
この数字について、よく調べられている疑問
規格上は「ちょうど」ではありません。ISO 216:2007 の箇条7は、150mmを超え600mm以下の寸法に±2mmの許容差を認めています。A4の210mmも297mmもこの区分に入るため、208〜212mm×295〜299mmの紙も規格上はA4です。ただしこれは「A4とみなせる範囲」であり、製造公差は取引当事者間で別に取り決めるものだと規格自身が断っています。
面積1m²・辺の比1:√2を厳密に解くと840.896×1189.207mmという端数になります。規格はこれをmm単位に丸めて841×1189mmとしました。その結果、実際の面積は999,949mm²で、1m²より51mm²だけ小さくなります。割合にすると0.005%です。紙は裁断の許容差を持っており(A0は両辺とも600mmを超えるので±3mm)、この丸め差はその許容差よりはるかに小さい範囲に収まります。
違います。JIS P 0138 のB0は1030×1456mm(面積およそ1.5m²)で、B5は182×257mm。一方 ISO 216 のB0は1000×1414mm(A列の幾何平均)で、B5は176×250mmです。JIS-Bのほうが辺の長さで3%大きく、B5で6〜7mm、B4では幅7mm・長さ11mmの差が出ます。
辺の比が1:√2の長方形は、長辺を半分にしても比が1:√2のまま変わらないためです。√2を半分にすると√2/2で、これは1/√2に等しく、短辺と長辺を入れ替えると元と同じ比になります。この性質を持つ比は1:√2しかなく、ISO 216 はこれを「相似の原則」と「半裁の原則」として定めています。
関係します。ISO 216 の箇条7.2は、寸法を ISO 187 が定める試験用標準雰囲気で測定せよと定めています。ISO 187:2022 の標準雰囲気は(23±1)℃・(50±2)%RHです。紙は吸湿すると伸び、乾くと縮むため、測定時の空気の状態を決めておかないと寸法が一意に決まりません。
この記事の限界
- ISO 216 の箇条6には寸法表そのものは載っているが、mm への丸め方(半裁して切り捨てる)を明文で規定した文は、読めた範囲には見当たらなかった。本文で述べた丸め規則は、公表されている表1・表2の数値が841×1189および1000×1414からの半裁切り捨てで完全に再現できることを計算で確かめたもので、規格が言葉でそう書いているという意味ではない。
- JIS P 0138:1998 の規格票本文は有償で、JSAが発行する規格票そのものは参照していない。本文の内容は公開転載(kikakurui.com)で読んだ。A列の寸法と許容差の区分は ISO 216:2007 と一致することを確認したが、B列の数値は一致しない(JIS-B列 1030×1456mm と ISO-B列 1000×1414mm は別物であり、それがこの記事の主題である)。なお発行日1998-10-31・確認日2022-10-20・原案作成団体(日本製紙連合会)は、JSAの書誌ページの記載によるもので、規格票本文で独立に確認したものではない。
- JIS-B列の面積基準を「1.5m²」とする記述は、規格票が言葉でそう規定しているという意味ではない。JIS P 0138 の箇条4.4の定義文は ISO と同じく「A列の隣り合う各寸法の幾何学的中間値」で書かれており、1.5m² は公表されているB0=1030×1456mm から当サイトが逆算した値である(1.030×1.456=1.49968m²)。
- B列の由来を「江戸幕府の公用紙・美濃判(美濃紙)」とする説明は印刷業界の解説に広く見られるが、一次資料では確認できなかった。国立国会図書館のレファレンス事例は、B列を四六判、A列を菊判に対応づけて説明しており、美濃判に直結させていない。この記事では由来を断定していない。
- DIN 476(1922年)とヴァルター・ポルストマンについては、ドイツ語の解説記事で年と人名を確認したにとどまり、DIN 476 の規格原本には到達していない。
- 米国がレターサイズを使い続ける経緯(1921年に商務長官フーバーが政府用紙を標準化したとする説)は、一次資料で確認できなかったため本文に書いていない。レター=8.5×11インチという寸法そのものは、ISO 216 が参考文献に挙げる ASTM D 3460 の領域である。
- 日本の紙寸法規格の制定年(1929年 日本標準規格第92号、1951年 JIS制定)は、国立国会図書館のレファレンス事例と業界解説による。当時の官報や規格原本には到達していない。
出典
- ISO 216:2007(プレビューPDF)/ ISO / iTeh Standards / 2026-07-15 確認
- JIS P 0138:1998 紙加工仕上寸法/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-15 確認
- JIS P 0138:1998 本文/ kikakurui.com / 2026-07-15 確認
- ISO 187:2022(プレビューPDF)/ ISO / iTeh Standards / 2026-07-15 確認
- 紙のサイズにはなぜ「A」と「B」があるのか/ 国立国会図書館 レファレンス協同データベース / 2026-07-15 確認
- ISO 216:2007 - Writing paper and certain classes of printed matter(カタログ)/ ISO / 2026-07-15 確認
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この記事を書いた人
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