エアコンの「6〜9畳」は、無断熱の木造和室と鉄筋集合住宅の差でできている
「冷房 6〜9畳(10〜15m²)/暖房 6〜7畳(9〜11m²)」。ルームエアコンのカタログの仕様表には、この2行が並んでいる。同じページの上のほうには、もっと大きな文字で「冷房時 おもに6畳用」と書いてある。同じ製品に、幅のある数字と、幅のない数字が、2つついている。
この2つは出どころが違う。資源エネルギー庁が2021年2月のワーキンググループに出した資料は、そこをはっきり分けて書いている。「畳数のめやす」は日本電機工業会規格 JEM-1447 に基づく数字で、定格能力ごとに畳数の最小値と最大値の幅が規定されている。もう一方の「おもに畳数」には、対応する規格がない。各社の判断で書かれている値で、結果として各社の値が近くなっている、と同じ資料が説明している。
そして、幅のあるほうの「6〜9畳」の6と9が何なのかも、この資料は書いている。6は無断熱の木造和室の数字で、9は鉄筋コンクリート集合住宅の数字である。
資料には何が書かれているか
資源エネルギー庁「エアコンディショナーの畳数目安、測定方法について」(2021年2月15日)に引用された JEM-1447 の規定|資料の記述(要旨)冷暖房面積を範囲で表示する場合、上限(最大冷暖房面積値)には鉄筋集合住宅・中間層・南向き洋間の単位床面積当たりの冷暖房負荷を使い、下限(最小冷暖房面積値)には一戸建木造平屋・南向き和室の負荷を使う。その範囲を冷暖房面積の目安とする。
負荷の値そのものも、同じ資料に図で示されている。一戸建木造平屋・南向き和室の冷房負荷は 220W/m²、鉄筋集合住宅・中間層・南向き洋間は 145W/m²。この2つの数字が、畳数のめやすの下限と上限を作っている。
定格冷房能力 2.2kW の機種で割り算をすると、資料の説明と数字が合う。2200W ÷ 220W/m² = 10m²、2200W ÷ 145W/m² = 約15.2m²。カタログに併記されている「10〜15m²」と一致する。畳に直せば 6畳と9畳で、「6〜9畳」になる。5.6kW でも同じで、5600 ÷ 220 = 25.5m²(約15畳)、5600 ÷ 145 = 38.6m²(約23畳)。カタログの「15〜23畳」と合う。畳数のめやすは、定格冷房能力を2種類の単位床面積当たり冷房負荷で割った、それだけの数字である。
問題は、その 220W/m² と 145W/m² がどこから来たかだ。資源エネルギー庁の資料は、JEM-1447 が想定する空調負荷は1965年の空気調和・衛生工学会規格「HASS 109-1965(冷房負荷簡易計算方法)」に基づくと書き、そのうえで括弧書きでこう断っている。旧基準は昭和55年基準に満たない無断熱を想定している、と。
ただし、この規格番号については後述するように資料間で表記が揺れている。査読論文のほうは同じ熱負荷値の出典を「HASS108」と書いている。以下では、番号を確定できないものとして「HASS 108/109-1965」と表記する。
この熱負荷簡易計算の規格は、2009年に SHASE-S 112-2009 に更新されている。新しい規格では想定する住宅がはるかに細かく分かれ、外皮断熱の高・中・低や窓の大小、バルコニーの有無まで条件に入り、冷房の想定条件は戸建で48通り、集合住宅で32通りになった。旧基準の想定条件は戸建4通り、集合2通りである。それでも畳数のめやすは、引き続き旧基準の冷房負荷の数値を引用している、と資源エネルギー庁は記している。なお、資源エネルギー庁が2021年の資料で比較しているのはこの2009年版であり、SHASE-S 112 はその後2019年にも改定されている。2019年版の内容は当サイトでは確認していない。
試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 下限(例:6畳)の住宅 | 一戸建・木造・平屋・南向き・和室 一次資料で確認 | 冷房負荷 220W/m²。外気に触れる面が多い住宅 |
| 上限(例:9畳)の住宅 | 鉄筋集合住宅・中間層・南向き・洋間 一次資料で確認 | 冷房負荷 145W/m²。上下階と隣戸に挟まれた住戸 |
| 断熱の想定 | 昭和55年基準に満たない無断熱 一次資料で確認 | 資源エネルギー庁の資料が明記 |
| 室外条件 | 冷房33℃/暖房0℃ 一次資料で確認 | SHASE-S 112-2009 では冷房32.5℃/暖房3.9℃(東京) |
| 室内条件 | 冷房26℃/暖房22℃ 一次資料で確認 | SHASE-S 112-2009 では暖房20℃ |
| 運転の想定 | 連続空調 一次資料で確認 | SHASE-S 112-2009 は個別間欠空調(予冷・予熱1時間)を想定 |
| 地域 | 東京を対象に計算された値 二次資料で確認 | 全国で同じ畳数表示が使われている |
| 「おもに畳数」の根拠 | 規格なし 一次資料で確認 | メーカー判断。各社の値は概ね近い |
筆者はこう読んだ
ここからが、この記事を書くきっかけになった通説の検証になる。「エアコンの畳数の目安は1964年に定められた、無断熱の木造住宅を前提とする古い基準だ」という説は、住宅の断熱を扱うブログや工務店のサイトで広く見かける。到達できた一次資料と突き合わせると、この通説は3つの部分に分解できて、それぞれ真偽が違う。
第一に、「無断熱の木造住宅を前提としている」。これは正しい。しかも、それを書いているのは断熱を売りたい業者ではなく、資源エネルギー庁である。国の審議会に出された資料に、旧基準は昭和55年基準に満たない無断熱を想定している、とはっきり書かれている。畳数のめやすの下限が一戸建木造平屋の南向き和室であることも、同じ資料が JEM-1447 の規定文言として引いている。ここは動かない。
第二に、「JISで決まっている」という部分。これは正確ではない。JIS C 9612 は冷暖房能力や通年エネルギー消費効率(APF)の測定方法を定める規格で、畳数そのものを規定してはいない。2013年版の附属書には冷暖房負荷の簡易計算手法が参考として載るが、参考は規定ではない。カタログの畳数のめやすを規定しているのは、日本電機工業会規格 JEM-1447「ルームエアコンディショナの冷房及び暖房面積算出基準」である。興味深いことに、メーカー自身の説明も揺れている。日立のQ&Aは畳数の目安を「JISによる平均的な住宅の場合」と説明していて、経済産業省の資料が示す JEM-1447 という帰属とは食い違う。数字の出どころが業界内でも一本の線で説明されていない、ということになる。
第三に、「1964年」。ここが一番きわどい。到達できた一次資料に「1964年制定」と書いてあるものはひとつもなかった。資源エネルギー庁は「HASS 109-1965」と1965年の規格として書いている。一方、電力中央研究所の研究者が空気調和・衛生工学会論文集に2016年に発表した査読論文は、畳数めやすの基になっているのは「1965年制定(1964年原案)」の HASS108 で規定された単位床面積当たりの熱負荷値だ、と書いている。1964年は制定年ではなく原案の年である、という筋になる。しかも規格番号が108なのか109なのかも、資料によって違う。この規格票そのものは有償で、原本にはあたれていない。
つまり通説は、年号と規格の名前をひとつずつ取り違えながら、肝心の中身については当たっている。「1964年のJIS」ではなく、「1965年に制定された空気調和・衛生工学会の熱負荷計算規格の値を、1989年に日本電機工業会が JEM-1447 として畳数に変換したもの」が正確な家系図になる。JEM-1447 は日本電機工業会の規格ページによれば1989年9月1日制定で、改正の記載がない。前掲の査読論文も、JIS C 9612 が9回の改正を経ても単位床面積当たりの熱負荷値は変わっておらず、JEM-1447 の畳数めやすも変更されていない、と書いている。
こう整理すると、この数字の性質が見えてくる。畳数のめやすは、エアコンの試験室で測った値ではない。エアコンの性能を測った数字は定格能力(kW)のほうで、畳数はそれを1965年の住宅モデルの熱負荷で割った換算値にすぎない。エアコン側の数字は JIS C 9612 の改正で測定条件が更新され続けてきた。2013年の改正では、空調負荷100%に対応する外気温を旧規格の33℃から ISO に合わせて35℃に変え、負荷の発生時間も1991年から2000年の気象データに合わせ直している。エアコンを測る側の前提は現代化されたのに、割る側の住宅モデルは1965年のまま据え置かれている。この非対称が、畳数という数字の正体だと筆者は読んだ。
住宅のほうがどれだけ動いたかは、国の資料が数字で示している。東京を含む6地域の外皮性能の基準は、昭和55年基準の熱損失係数 Q値5.2W/m²K から、平成4年基準の4.2、平成11年基準の2.7へと強化され、平成25年基準では外皮平均熱貫流率 UA値0.87W/m²K になった。国土交通省は2022年4月に断熱等性能等級5(6地域で UA値0.6)を、同年10月に等級6(0.46)と等級7(0.26)を施行している。等級7の住宅の外皮性能は、畳数のめやすが前提にしている無断熱の住宅とは、比較の土俵が違う。
ただし、この基準が古いことが、そのまま「畳数のめやすは使えない」を意味するわけではない。同じ資源エネルギー庁の資料には、2017年度時点の住宅ストック約5,000万戸の断熱性能の内訳が載っている。昭和55年基準に満たない無断熱等が32%、昭和55年基準が36%、平成4年基準が22%、平成11年基準が10%。無断熱と昭和55年基準を足すと約7割になる。1965年の熱負荷値が想定する住宅は、日本の住宅ストックの中でまだ少数派ではない。畳数のめやすが実態と合わなくなっているのは、住宅ストック全体に対してではなく、新築の高断熱住宅に対して、という限定がつく。資源エネルギー庁自身の言い方も「実態との乖離が生じている可能性がある」であって、断定ではない。
規格が悪い、という話ではない。1965年の熱負荷値は、1965年の住宅に対しては正しかった。ずれているのは、規格が固定した前提条件と、その後に変わり続けた住宅の条件のほうである。そして、その前提条件がカタログの数字のどこにも書かれていないために、読者は「6畳用」という表示を自分の部屋にそのまま当てはめてしまう。カタログの数字が何を測ったものかを一段ずつ遡ると、たいていこの構造に行き着く。同じことは LED電球の「60W形相当」 にも、空気清浄機の適用床面積 にも起きている。
各社のカタログ表記
| メーカー | カタログ・Q&A での表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| パナソニック(CS-228CX/2.2kW) | 冷房 6〜9畳(10〜15m²)/暖房 6〜7畳(9〜11m²)、店頭表示「冷房時 おもに6畳用」 | 資源エネルギー庁の資料に掲載されたカタログ図で確認 |
| ダイキン(S22VTRXS/2.2kW) | 冷房 6〜9畳(10〜15m²)/暖房 6〜7畳(9〜11m²)、「暖房時/冷房時 おもに6畳程度」 | 同上。FAQでは「木造平屋南向き(和室)なら8畳、鉄筋アパート南向き(洋室)なら10畳」と、レンジ両端の意味を説明している |
| 日立(能力の特定なし) | Q&A では能力を特定せず「暖房8〜10畳、冷房8〜12畳」を例示(JEM-1447 では2.8kWクラスに相当する値。他社の2.2kWの行とは直接比較できない) | 日立は根拠を「JIS(日本工業規格)による平均的な住宅」と説明し、資源エネルギー庁は「JEM-1447」と説明している。両者は同じ土俵にない |
あなたの条件ならこう読み替える
この読み替えで足りないのは、では自分の部屋の熱負荷は何kWなのか、という一点に尽きる。それは畳数からは出てこない。窓の面積と方位、外皮の性能、階数、地域の気象条件を入れて計算するしかなく、当サイトは計算機を作らない。数字を自分の条件で動かしてみたい場合は、姉妹サイトの 暮らしの計算室 に電気代の計算がある。
カタログの畳数を見るときに覚えておけることは、ひとつだけある。あの数字は部屋の広さの単位に見えて、実は住宅の断熱性能の単位でもある、ということだ。「6〜9畳」という3畳の幅は、木造和室と鉄筋洋室という2つの住宅の差でできている。同じ2.2kW のエアコンが、住宅の性能によって6畳分にも9畳分にもなる。そこに1965年以降の断熱の進歩を足せば、幅はさらに右へ伸びるはずだが、その先の目盛りはまだカタログに刻まれていない。
本記事は JEM-1447 および HASS 108/109-1965 の規格本文にはあたれていない。いずれも有償頒布で、公開されていない。本文の規定文言・冷房負荷値・空調条件は、資源エネルギー庁が審議会資料に引用・図示した範囲と、空気調和・衛生工学会論文集の査読論文から再構成した。規格番号(HASS 108 か 109 か)と「1964年」が何の年であるかについては、資料間で表記が揺れており、原本での確定ができていない。この点は本文でも図版でも断定していない。
この数字について、よく調べられている疑問
「畳数のめやす(6〜9畳)」は日本電機工業会規格 JEM-1447 に基づく数字で、下限が木造平屋南向き和室、上限が鉄筋集合住宅中間層南向き洋間に対応します。一方「おもに6畳」には対応する規格がなく、各メーカーの判断で表示していると資源エネルギー庁の資料に明記されています。両者は一致しません。同資料の比較表では、おもに畳数はめやすの下限より0〜3畳大きい値に置かれています(2.2kW=おもに6畳/下限6畳、2.8kW=おもに10畳/下限8畳、5.6kW=おもに18畳/下限15畳)。レンジの下限と上限の間の、低いほうに寄った位置にあります。
JIS C 9612 は冷暖房能力や通年エネルギー消費効率の測定方法を定める規格で、畳数そのものを規定してはいません。2013年版の附属書には冷暖房負荷の簡易計算手法が参考として載りますが、カタログの畳数を規定しているのは日本電機工業会規格 JEM-1447 です。メーカーのQ&Aには根拠を「JIS」と説明するものもあり、業界内でも帰属の説明が揺れています。
JEM-1447 が引く冷房負荷値は、無断熱の住宅を想定した1965年の旧基準のものです。断熱等性能等級5から7のような住宅の熱負荷はこれより小さくなるため、同じ床面積でも必要な能力は下がる方向に働きます。ただし何kW下がるかは窓の大きさ・方位・階・気象条件で変わり、カタログの畳数からは読み取れません。
資源エネルギー庁は2021年2月のワーキンググループで、畳数のめやすが想定する空調負荷は住宅の断熱性能向上により実態との乖離が生じている可能性があると資料に記し、表示の見直しを検討事項として挙げました。日本電機工業会のルームエアコン性能規格WGでも空調負荷の見直しが検討されています。2026年7月時点で JEM-1447 の改正は確認できていません。
この記事の限界
- JEM-1447 の規格本文は日本電機工業会が有償頒布しており、原本の条項番号や表1の全数値までは確認できていない。本文で扱った規定文言と冷房負荷値は、資源エネルギー庁が2021年2月のワーキンググループ資料に引用した抜粋と図から再構成した。
- 通説の「1964年制定」に対応する一次資料には到達できなかった。資源エネルギー庁の資料は根拠を「HASS 109-1965」と1965年の規格として記載し、査読論文は「1965年制定(1964年原案)のHASS108」と記載している。規格番号が108なのか109なのか、1964年が原案の年なのかも、資料によって表記が揺れている。空気調和・衛生工学会の当該規格票そのものは有償で、原本にあたれていない。
- HASS 108/109-1965 の暖房負荷値と、暖房側の畳数めやすの算出根拠は確認できていない。資源エネルギー庁の資料が図で示しているのは冷房負荷(220W/m²、145W/m²)のみで、暖房についての単位床面積当たりの負荷値は本記事では扱っていない。
- 2021年のワーキンググループ以降、日本電機工業会の「ルームエアコン性能規格WG」で空調負荷の見直しが検討されているが、2026年7月時点で JEM-1447 の改正は日本電機工業会の規格ページに記載されていない。検討の最新状況は公開情報からは追えていない。
- 住宅ストックの断熱性能の内訳(無断熱等32%など)は2017年度の推計値であり、2026年時点の最新値ではない。
- 熱負荷簡易計算の規格は SHASE-S 112-2009 のあと2019年にも改定されている(SHASE-S 112-2019)。その内容は確認しておらず、本記事が2009年版として書いている比較は、資源エネルギー庁が2021年の資料で用いた時点のものである。
出典
- エアコンディショナーの畳数目安、測定方法について(資料3)/ 資源エネルギー庁・総合資源エネルギー調査会 省エネルギー小委員会 / 2026-07-13 確認
- JEM-1447 ルームエアコンディショナの冷房及び暖房面積算出基準/ 日本電機工業会 / 2026-07-13 確認
- 住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級の創設/ 国土交通省 / 2026-07-13 確認
- 多様な住まい方を考慮した家庭用エアコン選定支援ツールの提案(第1報)/ 空気調和・衛生工学会論文集 No.230 / 2026-07-13 確認
- JIS C 9612(ルームエアコンディショナ)の改正に伴うカタログ表示の変更について/ 日本冷凍空調工業会 / 2026-07-13 確認
- 適用畳数について(ルームエアコン)/ ダイキン工業 / 2026-07-13 確認
- 何畳用のエアコンか確認したいです/ 日立グローバルライフソリューションズ / 2026-07-13 確認
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