空気清浄機の「適用床面積 25畳」は、何を30分で除去した数字か
ダイキンの加湿ストリーマ空気清浄機 MCK554A は、スペック表に「適用畳数(空気清浄運転時)~25畳(~41m²)」と書き、その隣に「8畳を清浄する目安 11分」と書いている。シャープの KI-UX100 は空気清浄の適用床面積を~46畳(76m²)とし、8畳6分。パナソニックの F-VXW90 は40畳(66m²)で、8畳約7分。三社とも同じ欄に、同じ単位で、同じ形式の数字を並べている。
この「25畳」は、25畳の部屋の空気をきれいに保てるという意味ではない。日本電機工業会規格 JEM1467 が定めるのは、自然換気回数を1回/時とした天井高2.4mの部屋で、粉じん濃度1.25mg/m³の空気を、30分で0.15mg/m³まで下げられる部屋の広さである。つまり30分という時計を固定して、そこに面積を当てはめた数字だ。速さの数字を、広さの単位で書いている。
そしてこの前提は、2026年3月19日の JEM1467 改正で書き換えられた。
資料には何が書かれているか
日本電機工業会は、規格そのものは有償で頒布しているが、適用床面積の定義は公開ページで説明している。
日本電機工業会「もっと知りたい空気清浄機」および同「よくある質問」|資料の記述(要旨)適用床面積(目安)は、規定の粉じん濃度の汚れを30分で清浄できる部屋の広さを表す。天井の高さ2.4mで算出している。清浄時間は、8畳相当の部屋で規定の粉じん濃度の汚れが基準値以下になるまでの時間を指す。
「規定の粉じん濃度」の中身は、工業会の公開ページには数値が出てこない。数値を書いているのは各社の脚注のほうだ。パナソニックのFAQとシャープの製品ページは、ほぼ一字一句同じ文面で、「自然換気回数1(1回/時間)の条件において、粉じん濃度1.25mg/m³の空気の汚れを30分でビル衛生管理法に定める0.15mg/m³まで清浄できる部屋の大きさ」と書く。ダイキンの脚注はもっと短く、「日本電機工業会規格JEM1467に基づく試験方法により算出。」の一文だけで、数値は書かれていない。同じ規格を引きながら、読者に見せる情報の量が各社で違う。到達目標の0.15mg/m³は空気清浄機のために作られた値ではなく、建築物衛生法(ビル衛生管理法)が事務所などの浮遊粉じん量に定める基準から借りてきた値である。
試験室の大きさも、工業会の資料に書かれている。環境省サイトに置かれた工業会資料は、PM2.5の除去性能の試験条件を説明するくだりで、JEM1467 に定める集じん性能試験の試験室は 20〜32m³ である、と明記している。天井高2.4mで割れば 8畳から13畳ほどの部屋にあたる。25畳という表示は、25畳の部屋で測った数字ではない。8畳から13畳の試験室で測った集じん性能を、30分という時計を使って25畳に換算した数字である。
ここで区別しておきたいものが三つある。第一に、よく引かれる「たばこ5本分の煙」は適用床面積の試験ではない。工業会が、たばこ5本分の煙に含まれる粒子成分とガス成分を1日分の空気の汚れとして換算している、というフィルターの寿命の話である。集じんフィルターの交換の目安は空気を清浄する時間が初期の2倍以上になるまで、脱臭はにおいの除去率が半分になるまで、と工業会は説明している。
第二に、脱臭性能はまったく別の試験だ。JEM1467 の付属書Bにあたる脱臭性試験は、試験機関の公開説明によれば1m³のアクリル製密閉容器にたばこ5本を燃焼させ、アンモニア・アセトアルデヒド・酢酸の残存濃度から除去率を出す。容積1m³の箱の話であって、25畳の部屋の話ではない。
第三に、PM2.5の表示もまた別枠である。ダイキンが製品ページに置いているPM2.5の脚注は、JEM1467:2015 に基づき、0.1〜2.5μmの微小粒子状物質を32m³(約8畳)の密閉空間で99%除去する時間が90分以内、というものだ。同じ判定基準は、環境省サイトに置かれた工業会資料にも記載がある。適用床面積の「30分」とは、対象粒径も、目標も、時計の長さも違う。同じ規格番号の下に、目的の違う複数のものさしが同居している。
そして2026年である。工業会は2026年1月19日、国際規格に基づく空気清浄機の性能認証制度を設立すると発表した。IEC 63086-2-1 に準拠した第三者試験に基づき、CADR(清浄空気供給量)と集じん効率70%以上、表示値との乖離が−10%以内であることを認証する。規格側も、JEM1467 は2026年3月19日付で改正されている。新しい適用床面積について、工業会は認証制度のページでこう説明する。粉じんの沈着率を0.2回/時、換気回数を1回/時とする条件において、空気清浄機を運転した際の定常状態における粉じん濃度を、運転していない場合の定常状態における粉じん濃度から80%低減できる部屋の大きさ、と。
この定義の形をよく見ておきたい。比べているのは、運転したときの定常濃度と、運転しなかったときの定常濃度である。開始時の濃度と30分後の濃度ではない。時間が消えて、二つの定常状態の比較になっている。
「30分で下げきれる広さ」から、「低減した状態にできる広さ」へ。ものさしの向きが変わった。
試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 規格 | JEM1467「家庭用空気清浄機」 一次資料で確認 | 1995年3月17日制定、2026年3月19日改正。本文は有償頒布 |
| 初期の粉じん濃度 | 1.25 mg/m³ 二次資料で確認 | 各社の脚注が一致。工業会の公開ページに数値の記載はない |
| 到達目標 | 0.15 mg/m³ 二次資料で確認 | ビル衛生管理法の浮遊粉じん基準から借用 |
| 時間 | 30分 一次資料で確認 | この30分が固定された時計。広さのほうが変数 |
| 天井高 | 2.4 m 一次資料で確認 | 面積ではなく容積で効く。吹き抜けは前提外 |
| 自然換気回数 | 1回/時 二次資料で確認 | 外気が1時間に1回入れ替わる想定 |
| 集じん性能試験の試験室 | 20〜32 m³ 一次資料で確認 | 環境省サイト掲載の工業会資料に明記。天井高2.4mなら8〜13畳ほど。25畳の部屋で測った数字ではない |
| 汚染源の与え方 | 開始時に与えた汚れの減衰を見る 未確認 | 規格本文に「一度だけ与える」と書かれているのを確認したわけではない。工業会資料の減衰曲線(自然減衰と運転時の比較)と、PM2.5自主基準が「換気等による屋外からの新たな粒子の侵入は考慮しておりません」と明記していることからの推論 |
| 清浄時間の基準室 | 8畳相当・天井高2.4m 一次資料で確認 | カタログの「8畳を○分」はこの部屋の話 |
| 2026年改正後の算出条件 | 沈着率0.2回/時・換気回数1回/時のもとで、運転時の定常濃度を非運転時の定常濃度から80%低減できる広さ 一次資料で確認 | 「30分で下げきる」ではなく、二つの定常状態の比較になった。IEC 63086-2-1準拠の認証制度が2026年度から |
筆者はこう読んだ
適用床面積は、能力の数字ではなく、速さの数字である。
規格が固定しているのは30分という時計のほうで、動かしているのは部屋の広さのほうだ。同じ機械の性能を、時計を止めて眺めれば「8畳を11分」になり、面積に換算して眺めれば「25畳」になる。カタログの隣り合った二つの欄は、同じ一つの集じん性能を、二方向から言い換えたものにすぎない。25畳という数字が答えているのは「この機械はどれくらい速いか」であって、「この機械はどれくらいの広さを担当できるか」ではない。
この読み方が成立するかどうかは、試験の汚染源の与え方で決まる。旧来の JEM1467 の適用床面積は、開始時に1.25mg/m³の粉じんがあり、そこから0.15mg/m³まで下がるまでの時間を見る。ここで筆者は、試験の途中で新しい汚れが追加されることはない、と読んでいる。ただしこれは推論であって、規格本文に「汚染源は開始時に一度だけ与える」と書かれているのを確認したわけではない。根拠は二つある。工業会の資料が、空気清浄機の性能を「自然減衰」と「空気清浄機の運転」の減衰曲線の比較として図示していること。そしてPM2.5の自主基準が「換気等による屋外からの新たな粒子の侵入は考慮しておりません」と明記していること。減衰曲線を見る試験である以上、汚れは最初に与えられて、そこから減っていく。一発の汚れを、決められた時間内に片付けきれるか。それが測られている。
現実の居室では、汚れは出続ける。人が動けばチリやホコリが舞い上がり、調理をすれば油煙とにおいが出て、ドアの開閉のたびに外の空気が入る。工業会自身が公開資料で、家庭の空気の汚れを「浮遊しているもの」「人が動くと舞い上がるもの」「ニオイ成分」「一時的に発生する汚れ」に分けて説明しているとおりだ。発生が続く部屋では、機械は片付け終わることがなく、発生と除去が釣り合ったところで濃度が落ち着く。その釣り合いの位置がどこになるかは、30分で下げきれるかどうかとは別の問いである。旧規格の適用床面積は、その別の問いには答えていなかった。
だから「適用床面積は、空気をきれいに保てる広さではなく、一定時間できれいにできる広さである」という読み替えは成立する、と筆者は考える。ただしこれは、筆者の解釈として言うより先に、規格を作った側がすでに認めたことだと言ったほうが正確だ。2026年3月の改正で、工業会は適用床面積の算出条件そのものを、沈着率0.2回/時と換気回数1回/時のもとで、運転時の定常濃度を非運転時の定常濃度から80%低減できる部屋の大きさ、という書き方に変えた。沈着率という項目が入ったことに意味がある。粉じんが床や壁に落ちて自然に減る分を勘定に入れるということは、部屋を、汚れが入っては消えていく開いた系として扱うということだ。30分で片付ける競走から、低い状態を保てるかという定常の話へ。ものさしが向きを変えた。
改正前の数字と改正後の数字が同じ「畳」で書かれていても、両者は同じ土俵にない。家電メディアの解説記事は、新基準での適用畳数が従来のおおよそ3分の2程度の数値に見直されるとも言われている、という見方を伝えている。工業会や各社の一次資料にこの数字はなく、伝えている側も伝聞の形で書いているので、当サイトではこれを見込みとして置くにとどめる。具体的に何畳になるかの換算はしない。確かなのは、機械が何も変わらないまま表示だけが動く、という一点である。その差分の大きさこそが、旧来の適用床面積が背負っていた「30分の一発勝負」という前提の重さだと読める。
畳という単位が前提条件を丸ごと背負い込む構図は、この分野に繰り返し出てくる。エアコンの畳数の目安も、1965年の熱負荷値を1989年に畳数へ換算した数字であり続けている。単位が生活の実感に近いほど、裏側の試験条件は見えなくなる。掃除機の吸込仕事率が特定の測定点での値であるように、カタログの一語は、たいてい一つの試験条件の要約である。
見落とされやすいのが天井高だ。適用床面積は天井高2.4mで算出されている。床面積が同じでも、天井が高い部屋や吹き抜けのある部屋は、処理すべき空気の量が増える。25畳という表示は面積の形をしているが、実際に効いているのは容積である。
あなたの条件ならこう読み替える
自分の部屋の容積を実際の天井高で出して、カタログの前提とどれだけ離れているかを見たい場合は、姉妹サイトの暮らしの計算室に計算の導線がある。当サイトは計算機を持たない。数字がどこから来たかを追うところまでが仕事で、そこから先の当てはめは読者の部屋の条件によって変わる。
各社が同じ規格を引いている以上、25畳と46畳と40畳は同じ試験条件の上に乗っている。その意味で、この数字は比較可能である。ただし、その土俵が2026年に動いた。動いたことを知らずに新旧のカタログを並べると、同じ機械が縮んだように見える。どこまでが機械の話で、どこからがものさしの話か。カタログの数字を読むとは、その境目を見分ける作業である。
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| ダイキン(確認時点の掲載機種 MCK554A) | ~25畳(~41m²)/8畳11分 | 「日本電機工業会規格JEM1467に基づく試験方法により算出。」の一文のみ。粉じん濃度・時間・天井高といった試験条件は書かれていない |
| シャープ KI-UX100 | ~46畳(76m²)/8畳6分 | 自然換気回数1回/時、1.25mg/m³を30分で0.15mg/m³まで、という試験条件を脚注に明記。別に「プラズマクラスター適用床面積 約23畳」を併記 |
| パナソニック F-VXW90 | 40畳(66m²)/8畳約7分 | 仕様表には数値のみ。FAQ側で1.25→0.15mg/m³、30分、天井高2.4m、自然換気回数1回/時を明記(シャープとほぼ同一文面) |
日立の製品ページは自動取得を拒否したため、適用畳数と脚注の文面を確認できず、上の表から外した。
この数字について、よく調べられている疑問
規格上の意味としては、粉じんを規定の濃度まで下げるのにかかる時間が30分より長くなります。適用床面積は「30分」という時計を固定して広さに換算した数字なので、広さが増えれば時計のほうが伸びます。動かなくなるわけでも、効果がゼロになるわけでもありません。ただし後述のとおり、汚れが出続ける部屋では時間の話に還元できない部分が残ります。
2026年3月改正前のJEM1467の定義は「保てる広さ」ではなく「30分で下げられる広さ」です。初期濃度1.25mg/m³の空気を1回きれいにするまでの速さを面積に換算したもので、汚れが出続ける状態を前提にしていません。2026年4月からの新しい算出条件は、逆に「低い状態を保てるか」を見る考え方に変わっています。
どちらも同じ集じん性能から導かれる数字です。清浄時間は部屋の広さ(8畳・天井高2.4m)を固定して時間を測った値、適用床面積は時間(30分)を固定して広さに換算した値です。同じ性能を、時計を止めて見るか、面積に直して見るかの違いになります。
比べられません。JEM1467は2026年3月19日に改正され、日本電機工業会は新しい適用床面積を「沈着率0.2回/時・換気回数1回/時の条件において、空気清浄機を運転した際の定常状態における粉じん濃度を、運転していない場合の定常状態における粉じん濃度から80%低減できる部屋の大きさ」と説明しています。旧表示は開始時の汚れを30分で除去できるかを見た値、新表示は二つの定常状態を比べた値で、別の量です。同じ「畳」でも土俵が違います。
この記事の限界
- JEM1467 の規格本文は日本電機工業会が有償頒布しており、本文(全64ページ)は読んでいない。試験条件は、工業会の公開解説・環境省サイトに置かれた工業会資料・各社が製品ページの脚注に載せた文面から再構成した。条項番号までは確認できていない。
- 適用床面積が最大風量(強運転)を前提とした値かどうかを、規格本文でも工業会の公開解説でも確認できなかった。各社は適用床面積と「8畳を○分」を併記しているが、その運転モードの明示までは追えていない。
- 2026年4月からの新基準で適用畳数が「従来の約3分の2」になるという見込みは、家電メディアの解説記事が伝聞形(「〜とも言われています」)で紹介しているものであり、工業会または各社の一次資料では確認できていない。本文でも見込みとしてのみ扱っており、具体的な換算はしていない。
- 集じん性能試験の汚染源が「試験開始時に一度だけ与えられる」という理解は、工業会資料に示された減衰曲線(自然減衰と空気清浄機運転時の比較)と、PM2.5自主基準が「換気等による屋外からの新たな粒子の侵入は考慮しておりません」と明記していることからの推論である。規格本文に「一度だけ与える」と書かれていることを確認したわけではない。
- ダイキンの引用元URLは機種を固定しないパス(/cleanair/tw/spec)であり、将来モデルが入れ替わると引用が指す製品が変わる。確認時点の掲載機種は MCK554A(2024年モデル)。
- 日立の製品ページは自動取得を拒否したため、日立の適用畳数と脚注文面は確認できず、横断比較の表から外した。
出典
- JEM1467 家庭用空気清浄機(規格詳細)/ 日本電機工業会 / 2026-07-13 確認
- もっと知りたい空気清浄機/ 日本電機工業会 / 2026-07-13 確認
- 空気清浄機 性能認証制度/ 日本電機工業会 / 2026-07-13 確認
- 国際規格に基づく空気清浄機の性能認証制度を設立します/ 日本電機工業会 / 2026-07-13 確認
- 空気清浄機によるPM2.5対策/ 日本電機工業会(環境省サイト掲載) / 2026-07-13 確認
- 空気清浄機の適用床面積(適用畳数)について/ パナソニック / 2026-07-13 確認
- MCK554A スペック/ ダイキン工業 / 2026-07-13 確認
- KI-UX100 スペック/ シャープ / 2026-07-13 確認
- JEM1467による空気清浄機の汚染物質除去性能の検証(その2)/ 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集(2018) / 2026-07-13 確認
- 空気清浄機の新基準に関する解説記事/ GetNavi web 編集部(2026年2月26日) / 2026-07-13 確認
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