R32とR410Aは何が違うのか — 「新冷媒」R32は、R410Aの中身の片方である

カタログの数字
R410A=R32/R125(50/50 wt%)の混合冷媒/GWPはR410A=2,090・R32=675
根拠となる規格
冷媒番号と安全区分はASHRAE 34・ISO 817の体系/GWPはIPCC第4次評価報告書(100年値)
その数字を作った試験条件
GWPは100年積分値。安全区分は毒性(A/B)×燃焼性(1/2L/2/3)の組合せで、R410A=A1(不燃)・R32=A2L(微燃性)
前提が決まった年
モントリオール議定書1987年・キガリ改正2016年。フロン排出抑制法の指定製品制度が国内の移行を駆動
「R410A=R32/R125(50/50 wt%)の混合冷媒/GWPはR410A=2,090・R32=675」という数字の家系図。カタログの表示から、それを定めた規格と試験条件までを辿ったもの。

エアコンのカタログや室外機の銘板で、冷媒の欄が「R410A」から「R32」に置き換わって久しくなりました。「新冷媒R32」という言い方をよく見ますが、この2つの関係は「旧型と新開発」ではありません。R410Aの中身は、R32とR125を重量比50対50で混ぜたものです。つまりR32は、R410Aの中に最初から半分入っていた成分の片方を、単独で使うことにした冷媒です。

新しく作ったのではなく、混ぜるのをやめた。この一点を押さえると、GWPが3分の1になる理由も、追加充填ができるようになる理由も、そして不燃から微燃性に変わる理由も、全部つながって読めます。

資料には何が書かれているか — R410Aの中身は50/50の混合

組成から確認します。冷凍空調技術の解説サイトRefrig.jpの物性表は、R410Aの組成をR32=50、R125=50(重量比50/50の混合冷媒)とし、ASHRAE 34規格の安全区分でA1(毒性がなく不燃)に属すると記しています。ダイキンの解説記事も、R410AがR32とR125の混合冷媒であり、R32が単一冷媒であることを明記しています。業界団体である日本冷凍空調工業会(JRAIA)は、R410Aを「疑似共沸性の混合冷媒」と呼び、「R32は単一冷媒なので、組成管理の問題はほとんどありません」と書いています。

日本冷凍空調工業会「冷媒HFC(R410AおよびR32)を使用した家庭用エアコン」|資料の記述(要旨)

(要旨)R410Aは疑似共沸性の混合冷媒である。R32は単一冷媒なので、組成管理の問題はほとんどない。作動圧力はR22対比でR410AとR32は約1.6倍となり、両者でほぼ変わらない。

GWP(地球温暖化係数)は、ダイキンの記事がIPCC第4次評価報告書の100年値と出典を明記した上で、R32=675、R410A=2,090としています。東芝キヤリアのコラムも同じ数値を挙げ、「約3分の1」と表現しています。675という数字がどの報告書のどの表から来ていて、なぜ最新の報告書の値ではないのかは、親記事「R32の『GWP 675』は2007年の報告書で止まっている」で書いたとおりです。

そして安全区分。R410AはA1(不燃)、R32はA2L(微燃性)。東芝キヤリアのコラムはこの対比をはっきり書いており、ダイキンの記事はR32について「特定の条件下で燃焼する可能性がある」とし、設置・メンテナンス時に火気の使用を避けるなどの取り扱いを求めています。

定義の表

試験条件の項目規定されている値・条件注記
R410Aの正体R32/R125=50/50 wt%の疑似共沸混合冷媒 二次資料で確認「疑似共沸」はJRAIAの表現。組成比は解説サイトの物性表による
R32の正体単一冷媒(R410Aの成分の片方) 二次資料で確認JRAIA「組成管理の問題はほとんどない」
GWP(100年値)R410A=2,090/R32=675 二次資料で確認出典はIPCC第4次評価報告書とダイキン記事に明記。約3分の1
安全区分R410A=A1(不燃)/R32=A2L(微燃性) 二次資料で確認ASHRAE 34・ISO 817の体系。規格本文は当サイト未読
作動圧力どちらもR22対比で約1.6倍、両者ほぼ同じ 二次資料で確認JRAIAの記述。圧力面ではR410A→R32の段差が小さい
漏えい時の充填R410A=全量抜き取り後に再充填/R32=不足分の追加充填が可能 二次資料で確認混合冷媒は漏えいで組成がずれるため
熱伝導率R32=115mW/(m・K)/R410A=81mW/(m・K) 二次資料で確認ダイキン記事。約30%少ない充填量で同等性能とされる。測定条件は未確認
規制の駆動力キガリ改正(2016年)・フロン排出抑制法の指定製品制度 二次資料で確認2025年4月からビル用マルチ新設の目標GWP値750以下(東芝キヤリア記事)
R32とR410A — 確認できた対比
1987
モントリオール議定書。オゾン層破壊物質の規制が始まり、特定フロン→代替フロン(HFC)への転換が進む 二次資料で確認
2007
IPCC第4次評価報告書。R32=675・R410A=2,090というGWP値の出典 二次資料で確認
2016
キガリ改正。オゾン層は壊さないが温暖化係数の高いHFCそのものが削減対象になる 二次資料で確認
2025
フロン排出抑制法の指定製品制度により、4月からビル用マルチエアコンの新設に目標GWP値750以下(東芝キヤリア記事による) 二次資料で確認
年表R410AからR32への道筋(確認できた範囲)

この数字をどう読むか — 新開発ではなく、混ぜるのをやめた

まず、GWPが3分の1になる仕組みです。混合冷媒のGWPは成分の重量比で決まるので、R410Aの2,090は「675のR32」と「もう片方のR125」の平均として読めます。2,090が50/50の加重平均だとすれば、逆算でR125側は約3,500。つまりR410AのGWPを引き上げていたのは主にR125のほうで、R32への移行とは、混合物からGWPの高い側の成分を捨てる操作だったことになります(この逆算値は一次資料で確認した数字ではありません。詳細はlimits欄)。新物質の発明ではなく、既にあった成分の選び直し。「新冷媒」という言葉の印象とは、ずいぶん違う絵です。

次に、なぜ移行がこれほど速く進んだか。JRAIAの記述にある「作動圧力はR22対比で約1.6倍、R410AとR32でほぼ変わらない」が効いています。R22からR410Aへの移行では圧力が1.6倍に跳ね、機器も工具も作り直しになりました。R410AからR32への移行では、この段差がほぼありません。圧力設計の資産をそのまま使える置き換えだったことが、家庭用エアコンでの速い世代交代を支えています。

3つめは、単一冷媒であることの実務的な意味です。R410Aは疑似共沸——沸点の異なる2成分がほぼ一緒に蒸発する——とはいえ、完全な共沸ではないので、漏えいすると成分ごとに抜ける量がずれ、残った冷媒の組成が規定の50/50から動きます。ずれた組成の上に規定組成の冷媒を注ぎ足しても元には戻らないため、充填は全量抜き取りが原則になります。R32は単一成分なので、この問題が構造ごと消えます。「追加充填が可能」というメーカーの記述は、サービス性の宣伝である以前に、混合をやめたことの論理的な帰結です。

4つめは、代償です。GWPを3分の1にした引き換えに、安全区分は不燃(A1)から微燃性(A2L)に落ちました。R125は、GWPが高い一方で燃焼を抑える側の成分でもあり、それを捨てたR32単体は「特定の条件下で燃焼する可能性がある」冷媒になります。ただしA2Lの「2L」は、俗な意味の「燃えやすい」ではありません。規格上の区分名です。

毒性(A/B)と燃焼性(1・2L・2・3)の組合せで冷媒を分類する体系はASHRAE 34とISO 817が定めており、A2Lはその中で「微燃性」に当たる区分です。区分の境目を決める燃焼速度の数値基準は規格本文にあり、当サイトは原文を読めていないので、本記事では「A1からA2Lへ変わった」という事実までにとどめます。名前が試験条件とセットで初めて意味を持つのは、エアコンの「6畳用」が1964年の想定部屋でできていたのと同じ構図です。

もう一つ、GWPの比較だけでは見えない掛け算があります。ダイキンの記事は、R32の熱伝導率が115mW/(m・K)とR410Aの81mW/(m・K)より高く、約30%少ない充填量で同等の性能を出せるとしています。冷媒が温暖化に与える実質的な影響は「GWP×機器に入っている量」の掛け算なので、GWPが3分の1になり、さらに充填量そのものが3割減るなら、機器1台あたりのインパクトはGWPの比率よりもう一段小さくなる計算です。ただし、この熱伝導率がどの温度・圧力での値かまでは確認できていないので、ここでは掛け算の形だけを示しておきます。

最後に、この移行を駆動しているものです。モントリオール議定書(1987年)が特定フロンを退場させ、その代替として普及したHFC(R410Aもここに入ります)は、オゾン層は壊さない代わりにGWPが高い。2016年のキガリ改正で、今度はそのHFC自体が削減対象になりました。国内ではフロン排出抑制法の指定製品制度が受け皿で、東芝キヤリアの記事によれば2025年4月からビル用マルチエアコンの新設に目標GWP値750以下が課されています。R32の675は、この750という線のすぐ内側です。冷媒の選択は物性だけでなく、規制の線引きが決めています。

あなたの条件ならこう読み替える

銘板・カタログの「R32」「R410A」を、どう読むか
室外機の銘板にR410Aとあり、ガス漏れ修理で「全量入れ替え」と言われた
混合冷媒の組成ずれによる原則どおりの対応として読む
R410Aは疑似共沸混合冷媒で、漏えいすると成分比がずれる。追い足しでは規定組成に戻らない
R32機で同じ状況になった
不足分の追加充填という選択肢が規格上あり得ると読む(実際の可否は機器メーカーの指定による)
R32は単一冷媒で組成ずれが起きない。JRAIAも組成管理の問題はほとんどないとしている
「新冷媒だから性能が上」という説明を見た
GWPと充填量・熱伝導率の話と、冷暖房能力の話を分けて読む
R32の利点として確認できたのはGWP=675と少ない充填量・高い熱伝導率。機器としての能力・効率は機種の設計値(カタログのkWとAPF)を見る
R32の「微燃性」が不安になった
俗な「燃えやすい」ではなく、A2Lという規格上の区分名として読む。取り扱い注意(火気を避ける等)はメーカーの据付・保守条件に従う
安全区分はASHRAE 34・ISO 817の体系で、A2Lは不燃(A1)と可燃(3)の間に2014年前後に整備された微燃性の区分。定義の数値基準は規格本文にある

既設のR410A機の配管をR32機に流用できるか、どちらの冷媒の機種を選ぶべきか——そこから先は、機器メーカーの据付条件と、あなたの設備の状態の領分です。ここで確かめたのは、R410Aの中身がR32とR125の50/50であり、R32への移行が「混ぜるのをやめて、GWPの高い側を捨てる」操作だったこと。そして、その引き換えに安全区分がA1からA2Lへ一段動いたこと。カタログの冷媒欄の4文字の裏には、この取引が畳み込まれています。

確認できていないこと

安全区分(A1・A2L)と組成50/50wt%は、規格本文(ASHRAE 34・ISO 817)を読まずにメーカー・工業会・解説サイトの記載を突き合わせて採用した。R125のGWP約3,500は加重平均からの逆算で、一次資料での直接確認はしていない。高圧ガス保安法上のR32の扱いは確認できなかったため扱っていない。いずれも規格・法令の原文にあたるべき事項である。

この数字について、よく調べられている疑問

R32とR410Aは何が違うのですか。

R410AはR32とR125を重量比50/50で混ぜた疑似共沸混合冷媒、R32はその成分の片方だけを単独で使う単一冷媒です。GWP(地球温暖化係数)はR410Aの2,090に対しR32は675で約3分の1。一方、安全区分は不燃(A1)から微燃性(A2L)に変わります。作動圧力はどちらもR22の約1.6倍でほぼ同じです。

R32のエアコンはガスが減ったら追加充填できるのに、R410Aは全量入れ替えなのはなぜですか。

R410Aは沸点の異なる2成分の混合冷媒なので、漏えいすると成分ごとに抜ける量が変わり、残った冷媒の組成比がずれます。ずれた組成の上から規定比率の冷媒を足しても元の組成には戻らないため、一度すべて抜き取って充填し直します。R32は単一成分なので組成のずれが起きず、不足分だけの追加充填ができます。

R32は燃えるのですか。

R32は安全区分でA2L(微燃性)に分類され、メーカーの解説では「特定の条件下で燃焼する可能性がある」とされています。R410Aの不燃(A1)とはここが違い、設置・メンテナンス時に火気を避けるなどの取り扱いが求められます。区分の定義となる燃焼速度の数値基準は規格本文(ISO 817・ASHRAE 34)にあり、当サイトでは原文未確認のため立ち入りません。

この記事の限界

  • 冷媒の番号・安全区分を定める規格(ASHRAE 34・ISO 817)の本文は読んでいない。A2L・A1という区分と組成50/50wt%は、メーカー・工業会・解説サイトの記載を突き合わせて採用した。A2Lの定義にある燃焼速度の数値基準も原文では未確認。
  • R125単体のGWP値は、開いた資料に直接の記載がなかった。本文中の「約3,500」は、R410AのGWP=2,090が成分の重量比加重平均で計算されるという一般則を前提に、2,090×2−675から逆算した参考値であり、一次資料で確認した数値ではない。
  • 疑似共沸混合冷媒の温度グライド(沸点と露点の差)の具体的な数値は確認できていない。「漏えい時に組成がずれる」ことの定量的な程度も扱っていない。
  • 「約30%少ない充填量」「熱伝導率115/81mW(m・K)」はダイキンの解説記事の記述で、測定条件(温度・圧力)までは確認できていない。
  • 高圧ガス保安法上のR32の扱い(特定不活性ガスの区分)は、当サイトが開いた資料からは確認できなかったため、本記事では扱っていない。
  • モントリオール議定書・キガリ改正・フロン排出抑制法の原文は読んでいない。規制の経緯はメーカーコラムの記載による。
  • 既設のR410A機器の配管をR32機器に流用できるかどうかは、機器メーカーの据付条件によるため本記事では扱わない。

出典

  1. 次世代冷媒R32の基礎知識/ 東芝キヤリア / 2026-07-24 確認
  2. 新冷媒のR32とは?メリットや従来冷媒R410Aとの違い/ ダイキン工業 / 2026-07-24 確認
  3. 冷媒HFC(R410AおよびR32)を使用した家庭用エアコン/ 日本冷凍空調工業会 / 2026-07-24 確認
  4. R410Aってどんな冷媒?/ Refrig.jp / 2026-07-24 確認

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