USB PDの「100W」と「240W」は、コネクタの形ではなく20V×5Aと48V×5Aで決まっている
USB PD(USB Power Delivery)の「100W」は、固定電圧20Vと最大電流5Aの掛け算です。20×5で100。「240W」も同じで、48V×5Aで240になります。どちらも規格が「この電圧とこの電流を供給できる」と定めた電力契約の上限で、USB-Cという端子の形から出る数字ではありません。100Wという値じたいは新しくありません。USB-IFの適合性試験を担うGranite River Labsの解説は、USB Power Delivery Specification 1.0(2012年)ですでに最大100W(20V×5A)まで上がっていた、と記しています。240Wはそのあとに別の電圧を足して届いた高さです。
この記事では、その二つの数字が「どの規格の、どの電圧と電流で決まったのか」を、策定団体の公開情報まで遡って読みます。数値をさっと引きたいときは姉妹サイトの早見表をお使いください。ここは、引いた数値の出どころを確かめる場所です。
資料には何が書かれているか
100Wから240Wへの拡張は、USB Power Delivery Revision 3.1で定義されました。USB Promoter Groupの公式発表(2021年5月)を伝える報道と、USB-IF認定試験ラボの解説は、次の点で一致しています。
USB Promoter Group 公式発表(2021年5月)/Granite River Labs 解説|資料の記述(要旨)それまでのUSB PDは、20Vと5A対応ケーブルの組み合わせで最大100Wに制限されていた。Revision 3.1で28V・36V・48Vという三つの固定電圧が加わり、48V×5Aで最大240Wまで拡張された。100Wまでの従来域は標準電力域(SPR)、100W超は拡張電力域(EPR)と呼び分けられる。240Wを流すケーブルの要件は、USB Type-C Cable and Connector SpecificationのRelease 2.1で定義された。
押さえておきたいのは、240Wが「電流を上げて」得た数字ではない点です。電流は100Wのときと同じ5Aのまま。上がったのは電圧です。20Vを48Vまで引き上げたので、同じ5Aでも運べる電力が2.4倍になりました。28V・36V・48Vの三つの段は、それぞれ140W・180W・240Wの上限に対応します。電流を据え置いて電圧を上げるのは、細い導線に無理な電流を流さずに総電力を稼ぐための設計判断です。LANケーブルの「CAT6A」が保証しているのが伝送速度ではなく500MHzという周波数帯域なのと同じで、規格の数字は「何を固定して何を測ったか」を読まないと意味を取り違えます。
定義・試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 100W(SPR上限) | 20V × 5A 二次資料で確認 | 標準電力域。PD Spec 1.0(2012年)で規定 |
| 240W(EPR上限) | 48V × 5A 二次資料で確認 | 拡張電力域。PD Rev 3.1(2021年)で追加 |
| 固定電圧の段 | 5V / 9V / 15V / 20V + 28V / 36V / 48V 二次資料で確認 | 20V超の3段(28/36/48V)がEPR |
| 既定の最大電流 | 3A(20Vで60W) 二次資料で確認 | eマーカー無しケーブルの既定上限 |
| 5Aを流す条件 | eマーカー付き認証ケーブル 二次資料で確認 | 5A/EPR対応を電子的に宣言する |
| 240Wケーブル要件 | USB Type-C Cable and Connector Spec Release 2.1 二次資料で確認 | 48V・5A対応の物理要件を規定 |
電圧の決め方は一通りではありません。相手機器は、電源が提示するPDO(Power Data Object=電力データオブジェクト)の一覧から、5V・9V・15V・20Vといった固定値を選びます。これが固定PDOです。20V超の28V・36V・48VもEPRの固定PDOとして並びます。別に、電圧を連続して動かせる仕組みもあります。PPS(Programmable Power Supply)はPD 3.0で加わり、Granite River Labsの解説によれば20mV刻みで電圧を調整できます。EPRで入ったAVS(Adjustable Voltage Supply)は働きが似ていますが、刻みは100mVで、電流制限(Current Limit)動作を持ちません。このAVSはのちにSPR(標準電力域)側にも広がりました。Granite River Labsの解説によれば、2023年10月に公開されたUSB PD Revision 3.2は、電力供給能力が27Wを超える製品にSPR AVSモードへの対応を求めています。最大電力は240Wのまま。確認できた範囲ではR3.2が最新の版です。
この数字の読み解き方
いちばん取り違えやすいのは「USB-Cだから100W出る」という思い込みです。ワット数はコネクタの形では決まりません。同じUSB-C端子でも、その製品がPDに対応しているか、何ワットまでの契約を結べるかは製品ごとの実装しだいです。Belkinの製品群でも、同じUSB-C端子で20Wの充電器も100Wのアダプタも240Wのケーブルも成り立っています。端子の形は「ここに電力契約の交渉が通る道がある」ことしか示しません。上限の数字は、電源・機器・ケーブルの三者がそれぞれ何を宣言しているかで決まります。
ケーブルの役割はとくに見落とされがちです。USB-Cケーブルの既定の電流上限は3Aで、20Vと組み合わせても60Wで頭打ちになります。5Aを流して100Wに届かせるには、eマーカー(電子マーカー)という小さなチップを内蔵し、「このケーブルは5Aに耐える」と電子的に宣言する認証ケーブルが要ります。MakeUseOfの解説は、見た目が同じ二本のケーブルのうち一方は100Wを即座に交渉し、他方は60Wで止まる、という現象をこの宣言の有無で説明しています。100W超のEPRだと条件がさらに重なります。Plugableの解説は、電源(源)側が「シンク(受け手)とケーブルの双方がEPR対応であること」を検証してから240Wの契約に入る、と書いています。EPRは充電器・機器・ケーブルの三つがそろってはじめて成立します。どれか一つが100Wどまりなら、全体も100Wどまりです。
20V×5Aで100Wという枠は2012年に引かれました。当時のノートPCや周辺機器を賄うには十分な高さでした。その後、より大きなノートPCやゲーミング機、USBバスパワーで動くハードディスクやプリンタまで、一本のUSB-Cで賄いたいという使い方が出てきます。電流を上げると導線とコネクタの発熱が増えます。そこで電流は5Aに据え置いたまま、電圧を48Vまで上げて240Wに届かせました。EPRはこの順序で足された高さです。前提が変わったのではなく、前提の上に一段を積んだ、と読めます。
「100W」「240W」という切りのいい数字も、そのまま受け取ると誤解します。これらは電圧と電流の積の上限で、どんな機器にもその電力が流れるわけではありません。実際の契約は、電源が出せる電圧の選択肢(PDO)と、機器が要求する電圧の交渉で決まります。20V×5Aの100W対応をうたう充電器でも、9Vしか要求しない機器につなげば18Wで動きます。上限は「そこまで出せる」という天井で、いつもその値が出ているわけではありません。EPRで足された28V・36V・48Vも、機器がその電圧を要求してはじめて使う段です。48V対応の充電器に旧来の機器をつないでも、交渉は従来の枠内に収まります。数字は最大値の宣言で、動作点そのものではありません。
もう一つ、独自規格との切り分けも押さえておきましょう。PDはUSB-IFが策定する標準規格で、電圧はPDOやPPSで決めます。Quick Charge(QC)はQualcommの独自規格で、系統が違います。PPSとQCは働きが似て見えますが、PPSはUSB-IFがPDに組み込んだ仕組み、QCは別団体の技術です。ある充電器がPD対応でも、PPSやQCに対応するとは限りません。SDカードでV30・U3・Class 10という三つの速度クラスが並存しているのと同じで、USB-C端子の周りにも複数の充電規格が並んでいます。端子が共通でも、中で動く取り決めまで共通とは限りません。この「同じ形に複数の規格が同居する」構図は、LANケーブルのカテゴリ表示が帯域とイーサネット速度の二層に分かれているのとも通じます。
あなたの条件ならこう読み替える
100Wや240Wという数字は、手元の三者(充電器・機器・ケーブル)のうち最も低い宣言に合わせて縮みます。あなたの条件がどこで頭打ちになっているかで、読み替え方が変わります。
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| USB-IF(策定団体) | SPR=100W / EPR=240W | 100W=20V×5A、240W=48V×5A。USB Promoter Group発表(2021年5月)を伝える報道で確認 |
| Anker | PD 3.1 最大240W | PD/PPS/QCを別プロトコルとして区別 |
| Belkin | 同一USB-Cで20W〜240W | 対応ワット数はケーブルとeマーカーで決まる |
| Plugable | 240W EPR = 28/36/48V×5A | EPRケーブルは可視マーキングが必須 |
この数字について、よく調べられている疑問
100Wは固定電圧20V×最大電流5A、240Wは48V×5Aで得られる。100Wまでを標準電力域(SPR)、100W超を拡張電力域(EPR)と呼び分ける。EPRはUSB PD Revision 3.1(2021年)で追加され、28V/36V/48Vという20V超の固定電圧が新設された。48V×5Aで240Wに達する。
流せない。USB-Cケーブルの既定の電流上限は3A(20Vで60W)で、5Aを流すにはeマーカー(電子マーカー)付きの認証ケーブルが要る。100W超のEPRでは、機器・充電器・ケーブルの三者すべてがEPR対応であることが前提になる。コネクタがUSB-Cという形は、最大電力を保証しない。
別系統である。PDはUSB-IFが策定する標準規格で、電圧はPDO(固定値)やPPS(可変)で決める。QCはQualcommの独自規格。PPSはPD 3.0で加わった可変電圧の仕組みで、QCとは別物。ある充電器がPD対応でも、PPSやQCに対応するとは限らない。
この記事の限界
- USB-IFの仕様本文(USB Power Delivery Specification、USB Type-C Cable and Connector Specification)は会員・購入者向けで、当サイトは本文そのものを確認していない。数値はUSB-IF認定の適合性試験ラボ(Granite River Labs)の公開解説と、USB Promoter Groupの公式発表を伝える報道で裏を取った。
- usb.orgの公開ページ(usb-charger-pd、公式発表PDFなど)は、読者が一次資料として直接開けるよう出典一覧に挙げているが、当サイトからの自動取得は拒否され、当サイト自身は本文を開いて確認できていない。したがって図版・表での帰属は、当サイトが実際に取得・確認できたUSB-IF認定試験ラボの解説とUSB Promoter Group発表の報道に付けている。上記の理由から本記事の確信度の下限はsecondaryとしている。
- 各充電器・各機器が実際に何ワットを入出力するかは製品ごとの実装であり、当サイトは試験設備を持たず実測していない。
- EPRケーブルの内部要件(最小機能電圧53.65Vなど)は一部の解説にのみ現れ、独立した2件での一致までは取れなかったため本文には記していない。
- USB Type-Cコネクタが登場した正確な年(PD 2.0との対応関係)は、確認した公開資料の範囲では一致した記述が得られなかった。
出典
- USB Charger (USB Power Delivery)/ USB Implementers Forum / 2026-07-15 確認
- USB Promoter Group Announces USB Power Delivery Specification Revision 3.1/ USB Promoter Group / USB-IF / 2026-07-15 確認
- USB-C Power Delivery: Fast Charging Up to 240W/ Belkin / 2026-07-15 確認
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この記事を書いた人
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