M10のスパナは17mmか16mmか — 六角ボルトの二面幅は、JISの本体と附属書で割れている

カタログの数字
M10の二面幅 = 17mm(附属書)/16mm(本体規格)
根拠となる規格
JIS B 1002:1985(二面幅の寸法・ISO 272:1982 MOD)/JIS B 1180:2014 附属書JA
その数字を作った試験条件
本体規格はISO 272系列の二面幅、附属書JAは従来(旧JIS)の二面幅を存続。異なるのはM10・M12・M14・M22の4サイズ
前提が決まった年
1985年3月14日(JIS B 1002制定)/2014年4月21日(JIS B 1180改正で附属書存続を明記)
「M10の二面幅 = 17mm(附属書)/16mm(本体規格)」という数字の家系図。カタログの表示から、それを定めた規格と試験条件までを辿ったもの。

M10の六角ボルトを回すスパナは、何mmでしょうか。ホームセンターで買ったボルトなら、答えはまず17mmです。ところが規格の本文を開くと、二面幅の表にはM10=16mmと書いてあります。どちらかが間違っているのではありません。日本の六角ボルトには、二面幅の体系が2つ並んでいます。 ISO に合わせた本体規格の16mmと、従来の寸法を残した附属書の17mmです。そして市場に流通しているのは、いまもほぼ附属書のほうです。

食い違いが出るのは、M10(17/16)、M12(19/18)、M14(22/21)、M22(32/34)の4サイズだけです。M8の13mmやM16の24mmは、どちらの体系でも同じ値です。だから「新旧で全部ずれている」わけでも、「たまたま1サイズだけ例外」なわけでもありません。4か所だけ、体系の継ぎ目が残っています。ここから先は、その継ぎ目がどの規格のどこにあるのかを、読める資料まで遡って確かめます。

資料には何が書かれているか — 二面幅は本体と附属書で割れている

二面幅そのものの規格は、JIS B 1002「二面幅の寸法」です。日本規格協会の書誌ページによれば、制定は1985年3月14日、原案を作ったのは日本ねじ研究協会で、対応国際規格はISO 272:1982(MOD=修正採用)。2024年10月21日に確認され、現在も有効です。転載本文で読める適用範囲は、ねじ部品とスパナ類に適用する二面幅の寸法、および六角ボルト・六角ナットなどのねじの呼び径に対する二面幅の寸法を規定する、というものです。

JIS B 1002:1985(転載本文にもとづく要旨)|資料の記述(要旨)

(要旨)二面幅の寸法系列と、ねじの呼び径に対する二面幅を規定する。六角ボルト・六角ナットの二面幅は、ISO 272に基づく系列で、M8=13、M10=16、M12=18、M14=21、M16=24、M20=30、M22=34、M24=36(mm)。ISO 272-1982、ISO 2343-1972、ISO 4762-1977に基づく寸法を含む。

ここに17mmは出てきません。JIS B 1002の側は、1985年の時点でISOの系列に揃っています。では市場の17mmはどこに住んでいるのかというと、六角ボルトの製品規格であるJIS B 1180の附属書です。現行のJIS B 1180:2014の転載本文には、本体規格の二面幅としてM10=16.00・M12=18.00・M14=21.00・M22=34.00が並び、その後ろに附属書JA「ISO 4014〜ISO 4018、ISO 8676及びISO 8765によらない六角ボルト」が置かれています。そして附属書の冒頭には、次の一文があります。

JIS B 1180:2014 附属書JA(転載本文より逐語)|資料の記述(要旨)

この附属書は,将来廃止するので,新規設計の機器,部位などには使用しないのがよい。

「将来廃止する」と宣言しながら、廃止の期日は書かれていません。2014年4月21日の改正でも附属書の技術的内容はそのまま存続され、「新しい設計では使わないことが望ましい」と明記するにとどまりました(ねじ商社プロスパー洸洋の解説による)。つまり規格の建て付けは、本体=ISO寸法が正、附属書=旧寸法は経過措置、です。ところが市場の実態は逆で、同社の解説は「一般流通品はほぼ附属書品(ねじ商工連盟調べ)」と記しています。フジモトボサードの解説も「今でも流通品の多くの部分は附属書品で、本体規格品はあまり使用されていません」と書いています。規格が40年前に引いた移行の線を、市場はまだ渡り終えていません。

なお、正直に書いておきます。附属書JA側の二面幅の数値(M10=17など)そのものは、当サイトが開いた転載ページからは読み取れませんでした。附属書の値は、ねじ専門の情報サイト(YAMAZAKI)と商社2社の解説という独立した3件の記述が一致したことをもって採っています。この出どころの違いは、下の表の確信度にも反映しています。

定義・対比の表

試験条件の項目規定されている値・条件注記
M10附属書 17 / 本体規格 16 二次資料で確認本体はISO 272系列。差は1mm
M12附属書 19 / 本体規格 18 二次資料で確認同上
M14附属書 22 / 本体規格 21 二次資料で確認同上
M22附属書 32 / 本体規格 34 二次資料で確認このサイズだけ本体のほうが2mm大きい
変わらないサイズの例M8=13、M16=24、M20=30、M24=36 二次資料で確認新旧で共通。JIS B 1002の転載本文で確認
本体規格の根拠JIS B 1002:1985(ISO 272:1982 MOD)/JIS B 1180:2014本体 一次資料で確認1985年3月14日制定・2024年10月21日確認・有効
附属書の位置づけ「将来廃止するので,新規設計……には使用しないのがよい」 一次資料で確認JIS B 1180:2014 附属書JAの逐語。廃止期日の定めは確認できず
市場の流通一般流通品はほぼ附属書品 二次資料で確認ねじ商社の解説(ねじ商工連盟調べ、と付記)による
二面幅が新旧で食い違う4サイズ(単位mm)
1985
JIS B 1002「二面幅の寸法」制定(3月14日)。ISO 272:1982に基づく系列を採り、M10=16・M12=18・M14=21・M22=34となる。原案作成は日本ねじ研究協会 一次資料で確認
2014
JIS B 1180改正(4月21日)。本体規格はISO寸法のまま、附属書JAとして従来寸法の六角ボルトを存続。「将来廃止するので、新規設計……には使用しないのがよい」と明記 一次資料で確認
2024
JIS B 1002が確認される(10月21日)。1985年版が現行のまま有効 一次資料で確認
年表二面幅の二本立てをめぐる動き(当サイトが資料で確認できた範囲)

この食い違いをどう読むか

まず、「M10のスパナは17mm」という現場の常識は、附属書品の値として正しい数字です。「規格ではM10=16mm」という指摘のほうも、本体規格の値として筋が通っています。かみ合わないのは、どちらの体系の話をしているかが、たいてい省略されているからです。「M8」と書けば並目と読むねじの表記規則と同じで、書かれていない前提が答えを分けています。

ただしねじのピッチと違って、二面幅の省略には「既定値はこちら」という規格上の取り決めがありません。規格は本体を正としますが、市場は附属書を流通させています。省略の解き方が、規格と現場で逆を向いているわけです。

差が1mmという点も、実務では軽くありません。スパナと六角部のはめあいは、もともと0.1〜0.5mm程度の隙間で設計されています。六角レンチの対辺で見たとおり、この隙間が広がるほど力は角に集中し、なめやすくなります。16mmの本体規格品に17mmのスパナを掛けると、隙間は設計値より約1mm広がります。回せてしまうことはありますが、角を潰す典型的な条件です。逆に17mmの附属書品に16mmのスパナは入りません。「入らない」ほうは間違いにすぐ気づけますが、「緩いのに回せてしまう」ほうは、ボルトの頭が変形してから気づくことになります。

M22だけ向きが逆で、附属書32mmに対して本体規格は34mmと、2mm大きくなっています。M10・M12・M14は「ISOのほうが小さい」、M22は「ISOのほうが大きい」。つまりこの改正は、二面幅を一律に詰めたのではなく、別々に育った2つの寸法系列を突き合わせた結果です。ISO 272の系列と旧JISの系列は、多くのサイズで偶然そろい、4か所でそろわなかった。そろわなかった場所が、そのまま継ぎ目として残っています。

もう一つ、二面幅以外の見分けどころがあります。商社の解説によれば、本体規格品の部品等級A・Bは頭部の裏に座(ワッシャーフェイス)が付き、附属書品の標準には付きません。ナットの面取りも、附属書品は片面、本体規格品は両面が一般的とされます。手元のボルトの頭の裏を見て、座が一段付いていれば本体規格品の可能性が高い、という読み方ができます。刻印には強度区分は打たれていても、本体か附属書かは打たれていません。見分けは、寸法と形状のほうに現れます。

規格が「将来廃止する」と書いてから、10年以上が経ちました。それでも流通が附属書品のままなのは、怠慢というより互換の重さです。工場のスパナもソケットも、在庫のボルトも、既存の図面も、17mmの世界で回っています。ボルトだけ16mmに替えれば、工具と在庫と図面のすべてに波及します。二面幅のような「他のものと噛み合う寸法」は、単独では移行できません。1985年に引かれた線が2026年になっても渡り終えられていないのは、この寸法が一人で存在していないからです。

メーカーカタログの表記脚注に書かれている測定条件
JIS B 1002:1985(転載本文)M10 = 16mmISO 272系列。17mmはこの規格には現れない
JIS B 1180:2014(転載本文)本体規格 M10 = 16.00mm + 附属書JA(旧寸法を存続)附属書JA側の数値は当サイトが開いたページでは読み取れず
ねじの情報サイト(YAMAZAKI)附属書 17 / 本体 16(M12は19/18、M14は22/21)「一般流通品はJIS B 1180附属書のもの」と明記
プロスパー洸洋(ねじ商社)M10 17→16・M12 19→18・M14 22→21・M22 32→34「一般流通品はほぼ附属書品(ねじ商工連盟調べ)」。座付き・面取りの相違も解説
フジモトボサード(締結資材商社)二面幅の変更はM10・M12・M14・M22の4サイズ「流通品の多くの部分は附属書品」と明記
横断同じ「M10の二面幅」を、各資料はどう書いているか各社の公開カタログ・製品ページの記載を確認したもの。製品の優劣を比較したものではない。

あなたの条件ならこう読み替える

手元の「M10」に、どちらの二面幅を当てるか
国内で普通に買ったボルト・既設の設備を回す
まず17mm(附属書寸法)を当てる。緩ければ16mmを疑う
一般流通品はほぼ附属書品と商社が明記している。ただし本体規格品も正規のJIS品として混在しうるため、緩いスパナで回し続けない
輸入機械・海外調達のボルトを回す
ISO寸法=本体規格と同じ16・18・21・34mmを当てる
本体規格はISO 272系列に整合しており、海外品の六角部は原則こちらの寸法で作られている
これから新規に設計・調達する
本体規格品(二面幅16・18・21・34)を指定し、図面にどちらの規格かを明記する
JIS B 1180附属書JAは「将来廃止するので、新規設計……には使用しないのがよい」と規格自身が書いている。無記名の「M10六角ボルト」は、調達先によってどちらも届きうる
工具を一式そろえる
16・17・18・19・21・22mmを重複と思って抜かない
新旧の系列が市場に同居しているため、1mm違いの隣り合うサイズがどちらも実在する。片方を「ほぼ同じ」として省くと、なめる条件を自分で作ることになる

このずれの数値そのものを一覧で引きたいときは、スパナ・レンチ対辺の早見表が早いです。この記事が引き受けたのは、その表の「M10=17(附属書)/16(本体)」という2列が、どの規格のどの建て付けから来ているかを確かめるところまでです。

最後に、ここから先は扱わない、という線を引いておきます。どちらの規格品を採用すべきか、締付けトルクをいくつにするかは、設計と調達の判断であり、機器メーカーの指定と設計図書が優先します。当サイトが書けるのは、17と16という2つの数字が、どちらも正規の出どころを持っていて、その出どころが本体と附属書という別の場所にある、という事実までです。数字が割れているときは、たいていどちらかが間違っているのではなく、前提が2つあります。

確認できていないこと

附属書JA側の二面幅の数値(M10=17・M12=19・M14=22・M22=32)は、規格本文の転載ページから直接は読み取れず、ねじ商社・ねじ専門情報サイトの独立した3件の一致で確認した。うちM22の32→34を数値まで確認できたのは1件にとどまる。規格票正本(有償)は購入しておらず、旧寸法がいつの制定で決まったかという1985年以前の経緯も未確認である。

この数字について、よく調べられている疑問

M10の六角ボルトを回すスパナは何mmですか。

市場に流通している六角ボルトの大半は附属書品(旧JIS寸法)で、二面幅は17mmです。ただしISO整合の本体規格品は16mmで、これも正規のJIS品です。手元のボルトがどちらかは見た目の刻印では分からないため、迷ったらまず17mmを当て、緩ければ16mmを試すのが実務的です。M12(19/18)・M14(22/21)・M22(32/34)も同じ事情を抱えています。

なぜ同じM10に二面幅が2つあるのですか。

1985年制定のJIS B 1002がISO 272系列の二面幅(M10=16)を採り、一方で従来の寸法(M10=17)を作り続けられるよう、JIS B 1180が附属書として旧寸法を存続させたためです。2014年4月21日の改正でも附属書は残されましたが、規格本文には「この附属書は、将来廃止するので、新規設計の機器、部位などには使用しないのがよい」と明記されています。それでも一般流通品はほぼ附属書品のままです。

本体規格品と附属書品は二面幅以外にも違いがありますか。

あります。商社の解説によれば、本体規格品の部品等級A・Bには頭部裏面に座(ワッシャーフェイス)が付き、附属書品の標準には付きません。ナットの面取りも、附属書品は片面取り、本体規格品は両面取りが一般的とされます。頭の裏の座の有無は、現物でどちらの系統かを見分ける手がかりになります。

この記事の限界

  • JIS B 1002・JIS B 1180の規格票正本(日本規格協会発行)は有償で、当サイトは購入していない。本文の確認は転載サイト(kikakurui.com)と書誌ページによる。転載本文の抽出は複数回行い、一致した値を採ったが、正本との一字一句の照合はしていない。
  • JIS B 1180:2014 附属書JAの二面幅の数値そのもの(M10=17など)は、当サイトが開いた転載ページからは読み取れなかった。附属書側の値は、ねじ商社・ねじ専門の情報サイトという独立した3件(YAMAZAKI・プロスパー洸洋・フジモトボサード)の記述が一致したことをもって secondary として扱っている。うちM22=32→34を数値で確認できたのはプロスパー洸洋の1件で、他はM22を「変更された4サイズ」の一つとして挙げるにとどまる。
  • 旧JISの二面幅(M10=17など)がいつの制定・改正で決まったのかは確認できていない。本記事のTimelineは、ISO系列の二面幅を規定したJIS B 1002の制定(1985年)と、附属書の存続を明記したJIS B 1180の改正(2014年)に限っている。1985年より前の経緯(本体と附属書の二本立てがいつ始まったか)は未確認である。
  • ISO 272:1982の規格本文は読んでいない。ISO系列の二面幅は、JIS B 1002の転載本文とJSA書誌ページの対応国際規格欄で確認した範囲による。
  • 「一般流通品はほぼ附属書品」という市場の実態は、ねじ商社の記述(ねじ商工連盟調べ、と付記あり)によるもので、当サイトが流通統計そのものを確認したわけではない。
  • 座付き(ワッシャーフェイス)・面取りの相違は商社の解説で確認した二次情報であり、規格本文の該当条項では照合していない。

出典

  1. JIS B 1002:1985 二面幅の寸法/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-24 確認
  2. JIS B 1002:1985 二面幅の寸法(転載本文)/ kikakurui.com / 2026-07-24 確認
  3. JIS B 1180:2014 六角ボルト(転載本文)/ kikakurui.com / 2026-07-24 確認
  4. 六角ボルトの二面幅について(第76号)/ ねじの情報サイト(YAMAZAKI CORPORATION) / 2026-07-24 確認
  5. 本体規格(新JIS)附属書(旧JIS)について/ プロスパー洸洋 / 2026-07-24 確認
  6. 六角ボルトの基礎知識 Vol.4「本体規格品」と「附属書品」編/ フジモトボサード / 2026-07-24 確認
  7. ボルト径基準による六角二面幅寸法及びピッチ/ 十一屋ボルト / 2026-07-24 確認

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