六角レンチの「対辺4mm」は、ねじの呼び径ではなく穴の寸法で決まっている

カタログの数字
M6の対辺=5mm
根拠となる規格
JIS B 1176:2014(六角穴付きボルト)
その数字を作った試験条件
六角穴の二面幅s。呼び径ではなく穴の寸法で決まる。呼びは穴の最小側で、実寸はそれよりわずかに大きい
前提が決まった年
2014
「M6の対辺=5mm」という数字の家系図。カタログの表示から、それを定めた規格と試験条件までを辿ったもの。

六角穴付きボルトの M5 を回す六角レンチは、対辺4mm です。M6 は5mm、M8 は6mm。「呼び径から1つか2つ引いた数」に見えますが、そう単純ではありません。呼び径ごとに対辺(二面幅、記号 s)を並べると、M3=2.5、M4=3、M5=4、M6=5、M8=6、M10=8、M12=10、M14=12、M16=14、M20=17(いずれも mm)です。

呼び径との差は、M3 が −0.5、M4・M5・M6 が −1、M8・M10・M12・M14・M16 が −2、M20 が −3 と、途中で段階的に広がります。比例とも一定の差とも合いません。対辺は呼び径から計算する数ではなく、ボルト頭部に開いた六角穴そのものの寸法で、別の表に一つずつ載っています。覚えるなら公式ではなく表、迷ったら早見表を引いてください。

六角レンチの「4mm」は、ねじの太さではありません。ボルトの頭に開いた穴の、向かい合う二平面のあいだの距離です。ねじ部の呼び径 M5 と、頭の穴の対辺 4mm は、同じ一本のボルトの上で別々に決められた寸法です。ベアリングの「6203」で番号が寸法の座標だったのと同じく、呼び径という一つの数字から工具の寸法は導けません。穴の寸法は、穴の寸法として独立に読んでください。

資料には何が書かれているか — 対辺は穴の寸法で決まる

六角穴付きボルトの根拠は JIS B 1176:2014「六角穴付きボルト」 です。当サイトが読んだ転載ページの適用範囲欄では、並目ねじで M1.6 から M64 までを対象にしています。対応国際規格は ISO 4762:2004(Hexagon socket head cap screws)で、JIS B 1176 はこれと整合させて改正されました。

ただし ISO 4762 の本文は当サイトは開いていないので、適用範囲は JIS B 1176 側で確認した数字として書きます。頭部の六角穴の二面幅 s は、この規格の寸法表(表3)に呼び径ごとに載っています。M5 が4、M6 が5、M8 が6、M10 が8、M12 が10(いずれも mm)。この s の呼び値をそのまま回すのが六角レンチです。

JIS B 1176:2014 六角穴付きボルトの転載ページ・メーカー抜粋にもとづく要旨(逐語引用ではない)|資料の記述(要旨)(要旨)六角穴付きボルトの頭部には正六角形の穴があり、その二面幅 s が呼び径ごとに定められている。s は呼び径から計算される値ではなく、寸法表に個別に与えられる基準寸法で、M5=4、M6=5、M8=6、M10=8、M12=10mm。穴の s の許容差はプラス側にとられ、呼び(基準寸法)は実寸の最小よりわずかに下に置かれる。

工具側は JIS B 4648:2008「六角棒スパナ」 です。六角レンチ・L レンチ・ヘキサゴンレンチなどと呼ばれる、あの L 字の工具の正式な規格名がこれです。対応国際規格は ISO 2936:2001 の修正採用(MOD)で、ISO 2936 はその後 2014 年版に改正されています。JIS B 4648 は二面幅0.7〜46mm を対象にし、柄の長さで標準形・M形・L形を分けます。同じ対辺でも、長い柄(L形)か短い柄かで使い勝手が変わるだけで、二面幅は共通です。

この規格はボルトの強度区分(JIS B 1051 など)に対応した工具として作られています。ボルトの強度区分「10.9」の話ともつながります。

標準形・M形・L形の違いは柄の長さだけです。差し込む六角の断面は三つの形で共通です。長い柄はてこが長くなる分だけ小さな力で回せますが、六角穴に力を伝える面そのものは柄の長さでは変わりません。規格が厳密に管理しているのは二面幅で、柄の長さは使い勝手として選べる変数です。「寸法として管理される数」と「使い勝手として選べる数」を分けて読むと、規格の見通しがよくなります。

定義・試験条件の表

試験条件の項目規定されている値・条件注記
二面幅 s の定義正六角形の向かい合う二平面のあいだの距離 二次資料で確認呼び径ではなく穴・工具そのものの寸法
M5 → 穴の s呼び4mm(4.020〜4.095) 二次資料で確認呼び4は実寸(4.020)よりわずかに下。許容差はプラスに開く
M6 → 穴の s呼び5mm(5.02〜5.14) 二次資料で確認同上
M8 → 穴の s呼び6mm(6.02〜6.14) 二次資料で確認同上
レンチ s(呼び5mm)最大5.00・最小4.95 二次資料で確認呼びは最大側。許容差はマイナスに削る
レンチ s(呼び6mm)最大6.00・最小5.95 二次資料で確認独立2件の転載で一致
対応国際規格ボルト=ISO 4762 / 工具=ISO 2936 二次資料で確認JIS B 4648はISO 2936:2001の修正採用
六角穴(JIS B 1176:2014)とレンチ(JIS B 4648:2008)の二面幅。呼びは同じでも、許容差の向きが逆に取られている。
2004
ISO 4762:2004(Hexagon socket head cap screws)が六角穴の寸法体系を規定 二次資料で確認
2008
JIS B 4648:2008 制定。ISO 2936:2001 を修正採用し、レンチの二面幅と許容差を規定 二次資料で確認
2014
JIS B 1176:2014 改正(ISO 4762:2004 と整合)。同年 ISO 2936 も 2014 年版に改正 二次資料で確認
年表ミリ系の二面幅体系が固まるまで(表題・発行年は公開目録で確認、本文は未参照)

対辺の数字をどう読むか

大事なのは、二面幅が「一つの数字」ではなく「二つの数字の隙間」だという点です。呼びの4mm や5mm は基準寸法であって、実物を測った寸法そのものとは限りません。JIS B 4648 のレンチは、呼び5mm なら実寸4.95〜5.00mm です。呼び5.00 がそのまま実寸の上限で、そこから下へ削られます。JIS B 1176 の穴は、呼び5mm なら実寸5.02〜5.14mm。こちらは対称には開きません。呼び5.00 は実寸の最小(5.02)よりさらに0.02mm 下で、実寸はすべて呼びより大きい側に開きます。工具は呼びとぴったりか小さめ、穴は呼びよりわずかに大きめに作られます。工具が穴に入らない事態を避けるための設計です。M6 の穴(5.02〜5.14)に呼び5mm のレンチ(4.95〜5.00)を差すと、隙間は最小0.02mm、最大0.19mm。

この隙間が「はめあい」です。締まっているほど六つの角が均等に当たり、広いほど二つか三つの角に力が集中してなめやすくなります。

この隙間は小さいです。M5 を例にとると、穴の s は呼び4mm で実寸4.020〜4.095mm、レンチの s は呼び4mm で実寸3.95〜4.00mm。両者の隙間は最小0.02mm、最大でも0.145mm しかありません。0.1mm 前後のはめあいのなかで、六角の六つの角が力を受け止めています。隙間が設計どおりなら、六面がほぼ均等に当たります。角が一つでも先に潰れると、残りの角に荷重が偏り、そこからさらに削れます。呼びの数字が同じでも、実寸が0.1mm 動くだけで当たり方が変わります。

「対辺がなめる」現象は、たいてい呼びの数字が合っていないからではなく、実寸の隙間が広がって起きます。レンチの角が摩耗して丸まると、実寸は下限の4.95mm よりさらに小さくなります。穴が塗装で埋まっていたり、一度なめて変形していれば、実寸は表の上限を超えます。呼びの数字は同じ「5」のままでも、はめあいが崩れます。呼び寸法は変わらないのに実寸がずれる、と分けて理解しておくと、ガタつく理由が工具のせいか穴のせいか切り分けられます。呼びの4mm という一つの数字の内側に、穴の許容差と工具の許容差という二つの範囲があります。実物どうしのはめあいは、その二つの差として現れます。

もう一つ、規格の外にあるのがボールポイントです。レンチの先端が球状で、斜めからでも差せます。ただしこの球面は、規格が定める「平面どうしの接触」ではなく、点に近い接触になります。JIS B 4648 の二面幅がそのまま効くのは、まっすぐ差し込む反対側の端です。ボールポイント側は角度をつけて回すための工夫という位置づけです。強く締める・緩める局面で二面幅がフルに働くのは、球でない側と考えてください。数値としての対辺と、使い勝手のための形状は、同じ工具でも役割が分かれています。

呼び径と対辺がずれていく −1、−2、−3 の階段にも理由があります。頭の直径のなかに六角穴が収まる以上、対辺を頭の太さほど速くは大きくできません。だから対辺は呼び径から少し遅れて増えます。その遅れが段階的に効いて、差は −1 から −2 へ、大きな呼び径では −3 へと開きます。M8 で6mm、M10 で8mm と、隣り合う呼び径で対辺が2mm 跳ぶ場所があるのも、この遅れの現れです。呼び径だけを手がかりに対辺を推し量ると、ちょうどこの遅れの分だけ外します。対辺は、ねじの太さの延長ではなく、穴の寸法として独立に引くのが確実です。

あなたの条件ならこう読み替える

ここまではミリ(メートル)系の話です。インチ(SAE)系のねじが相手なら、この表はそのまま当てはまりません。インチ系の六角穴付きねじは ASME B18.3 などの別体系で、二面幅の基準寸法が違います。インチのレンチは分数で刻まれていて、1/8=3.175mm、5/32=3.969mm、3/16=4.7625mm、1/4=6.35mm。

ミリの近い呼びと並べると、1/8 と3mm は0.175mm、3/16 と5mm は0.24mm、1/4 と6mm は0.35mm ずれています。とりわけ紛らわしいのが5/32=3.969mm で、ミリの4mm との差はわずか0.03mm。見た目では区別がつかないのに別物です。近いからこそ差さってしまい、あとには前の節で見たはめあいの隙間だけが残ります。呼びの数字が「4」と「5/32」で表記からして違うのに、実寸だけが接近しているのが厄介です。

あなたが読み替えるべき条件はどれか
インチ(SAE)系のねじを扱っている
ミリの対辺表は当てはまらない。3/16in=4.7625mm、5/32in=3.969mm はミリのどの呼びとも一致しない
インチ系は ASME B18.3 など別体系で、二面幅の基準寸法そのものが異なるため
穴が塗装・防錆処理で埋まっている、または一度なめて変形している
呼び=基準寸法であって実寸ではない。実際のはめあいは表の許容差の外側にずれている可能性がある
s は許容差をもつ基準寸法で、塗膜や変形は表が想定していない変化だから
ボールポイント側で回している
規格が定める平面どうしの二面幅接触ではなく、球面の点接触になる。表の二面幅がそのまま効くのは反対の差し込み側
ボールポイントは斜め差しのための形状で、二面幅の定義とは別の工夫だから
確認できていないこと六角穴 s の細かな最大・最小値(M5=4.020〜4.095mm など)は規格本文の転載ページ1件で確認した数字で、公式発行版そのものは参照していない。呼び寸法(M5=4、M6=5、M8=6mm)は複数の独立資料で一致している。インチ系の二面幅は工具メーカーの公開表で確認したが、ASME B18.3 本文は開いていない。

この数字について、よく調べられている疑問

六角レンチの対辺は、ねじの呼び径から計算できますか。

できません。M5は対辺4mm、M6は5mm、M8は6mm、M10は8mm、M12は10mmで、呼び径との差は一定しません。対辺(二面幅s)はボルト頭部の六角穴の寸法として、JIS B 1176の表で呼び径ごとに個別に定められています。計算ではなく表を引く数字です。

5mmの六角レンチで3/16インチのねじは回せますか。

3/16インチは4.7625mmで、5mmとは約0.24mm違います。ミリとインチ(SAE)は別々の規格体系で、二面幅の基準寸法が異なります。片方の工具をもう片方の穴に差すと、はめあいの隙間が大きくなり、力をかけたとき角が接触してなめる原因になります。

なぜ同じ「5mm」でもガタつくことがあるのですか。

呼びの5mmは基準寸法で、実寸には許容差があります。JIS B 4648ではレンチの二面幅は呼び5mmがそのまま実寸の上限で、実寸は4.95〜5.00mm。JIS B 1176では穴の二面幅は呼びを下回らない側へ許容差が開き、実寸は5.02〜5.14mmと呼びよりわずかに大きくなります(呼び5.00は実寸の最小5.02よりさらに下)。この差がはめあいの隙間で、レンチ側の摩耗や穴の変形でさらに広がります。

この記事の限界

  • JIS B 1176・JIS B 4648の規格本文は有償で、当サイトが読んだのは規格本文の転載ページ(kikakurui.com、jis.eomec.com)とメーカーの抜粋表。数値は独立した複数の資料で一致を確認したが、公式発行版そのものは参照していない。
  • 六角穴二面幅sの最大・最小の細かな値(M5=4.020〜4.095mmなど)は転載ページ1件で確認した。呼び寸法(M5=4、M6=5、M8=6mm)は複数資料で一致している。
  • ISO 4762・ISO 2936・ASME B18.3はISOおよびASMEの公開目録ページと標準関連サイトで表題・発行年を確認したが、本文(PDF)は開いていない。
  • ボールポイントの角度や接触の仕様はメーカー公開情報に基づく二次情報で、規格が定める二面幅の定義とは別枠。

出典

  1. ISO 4762:2004 Hexagon socket head cap screws/ ISO / 2026-07-15 確認
  2. ISO 2936:2014 Assembly tools for screws and nuts — Hexagon socket screw keys/ ISO / 2026-07-15 確認
  3. B18.3 Socket Cap, Shoulder, Set Screws, and Hex Keys (Inch Series)/ ASME / 2026-07-15 確認
  4. 六角穴付ボルト(JIS B 1176:2014 より抜粋)/ ミスミ / 2026-07-15 確認
  5. SAE to Metric Conversions for Hex Keys/ Hand Tool Essentials / 2026-07-15 確認

訂正履歴

この記事に訂正はありません。 誤りを見つけた場合はお問い合わせからご指摘ください。 訂正した場合は、日付とともにこの欄に記録します(訂正履歴の一覧)。

この記事を書いた人

Yamachiki / 運営・調査・執筆X @Yamachikichan1

規格・告示・業界基準が定める数値について、その出どころと試験条件を一次資料まで遡って記録しています。記事に書いたすべての数値には、根拠となる資料の所在(資料名・規格番号・発行者・URL・確認日)を添えています。確認できたことと、確認できなかったことを分けて書くことを、このサイトの基本方針としています。

運営者情報調査と検証の手順編集方針