六角レンチの「対辺4mm」は、ねじの呼び径ではなく穴の寸法で決まっている
六角穴付きボルトの M5 を回す六角レンチは、対辺4mm です。M6 は5mm、M8 は6mm。「呼び径から1つか2つ引いた数」に見えますが、そう単純ではありません。呼び径ごとに対辺(二面幅、記号 s)を並べると、M3=2.5、M4=3、M5=4、M6=5、M8=6、M10=8、M12=10、M14=12、M16=14、M20=17(いずれも mm)です。
呼び径との差は、M3 が −0.5、M4・M5・M6 が −1、M8・M10・M12・M14・M16 が −2、M20 が −3 と、途中で段階的に広がります。比例とも一定の差とも合いません。対辺は呼び径から計算する数ではなく、ボルト頭部に開いた六角穴そのものの寸法で、別の表に一つずつ載っています。覚えるなら公式ではなく表、迷ったら早見表を引いてください。
六角レンチの「4mm」は、ねじの太さではありません。ボルトの頭に開いた穴の、向かい合う二平面のあいだの距離です。ねじ部の呼び径 M5 と、頭の穴の対辺 4mm は、同じ一本のボルトの上で別々に決められた寸法です。ベアリングの「6203」で番号が寸法の座標だったのと同じく、呼び径という一つの数字から工具の寸法は導けません。穴の寸法は、穴の寸法として独立に読んでください。
資料には何が書かれているか — 対辺は穴の寸法で決まる
六角穴付きボルトの根拠は JIS B 1176:2014「六角穴付きボルト」 です。当サイトが読んだ転載ページの適用範囲欄では、並目ねじで M1.6 から M64 までを対象にしています。対応国際規格は ISO 4762:2004(Hexagon socket head cap screws)で、JIS B 1176 はこれと整合させて改正されました。
ただし ISO 4762 の本文は当サイトは開いていないので、適用範囲は JIS B 1176 側で確認した数字として書きます。頭部の六角穴の二面幅 s は、この規格の寸法表(表3)に呼び径ごとに載っています。M5 が4、M6 が5、M8 が6、M10 が8、M12 が10(いずれも mm)。この s の呼び値をそのまま回すのが六角レンチです。
JIS B 1176:2014 六角穴付きボルトの転載ページ・メーカー抜粋にもとづく要旨(逐語引用ではない)|資料の記述(要旨)(要旨)六角穴付きボルトの頭部には正六角形の穴があり、その二面幅 s が呼び径ごとに定められている。s は呼び径から計算される値ではなく、寸法表に個別に与えられる基準寸法で、M5=4、M6=5、M8=6、M10=8、M12=10mm。穴の s の許容差はプラス側にとられ、呼び(基準寸法)は実寸の最小よりわずかに下に置かれる。
工具側は JIS B 4648:2008「六角棒スパナ」 です。六角レンチ・L レンチ・ヘキサゴンレンチなどと呼ばれる、あの L 字の工具の正式な規格名がこれです。対応国際規格は ISO 2936:2001 の修正採用(MOD)で、ISO 2936 はその後 2014 年版に改正されています。JIS B 4648 は二面幅0.7〜46mm を対象にし、柄の長さで標準形・M形・L形を分けます。同じ対辺でも、長い柄(L形)か短い柄かで使い勝手が変わるだけで、二面幅は共通です。
この規格はボルトの強度区分(JIS B 1051 など)に対応した工具として作られています。ボルトの強度区分「10.9」の話ともつながります。
標準形・M形・L形の違いは柄の長さだけです。差し込む六角の断面は三つの形で共通です。長い柄はてこが長くなる分だけ小さな力で回せますが、六角穴に力を伝える面そのものは柄の長さでは変わりません。規格が厳密に管理しているのは二面幅で、柄の長さは使い勝手として選べる変数です。「寸法として管理される数」と「使い勝手として選べる数」を分けて読むと、規格の見通しがよくなります。
定義・試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 二面幅 s の定義 | 正六角形の向かい合う二平面のあいだの距離 二次資料で確認 | 呼び径ではなく穴・工具そのものの寸法 |
| M5 → 穴の s | 呼び4mm(4.020〜4.095) 二次資料で確認 | 呼び4は実寸(4.020)よりわずかに下。許容差はプラスに開く |
| M6 → 穴の s | 呼び5mm(5.02〜5.14) 二次資料で確認 | 同上 |
| M8 → 穴の s | 呼び6mm(6.02〜6.14) 二次資料で確認 | 同上 |
| レンチ s(呼び5mm) | 最大5.00・最小4.95 二次資料で確認 | 呼びは最大側。許容差はマイナスに削る |
| レンチ s(呼び6mm) | 最大6.00・最小5.95 二次資料で確認 | 独立2件の転載で一致 |
| 対応国際規格 | ボルト=ISO 4762 / 工具=ISO 2936 二次資料で確認 | JIS B 4648はISO 2936:2001の修正採用 |
対辺の数字をどう読むか
大事なのは、二面幅が「一つの数字」ではなく「二つの数字の隙間」だという点です。呼びの4mm や5mm は基準寸法であって、実物を測った寸法そのものとは限りません。JIS B 4648 のレンチは、呼び5mm なら実寸4.95〜5.00mm です。呼び5.00 がそのまま実寸の上限で、そこから下へ削られます。JIS B 1176 の穴は、呼び5mm なら実寸5.02〜5.14mm。こちらは対称には開きません。呼び5.00 は実寸の最小(5.02)よりさらに0.02mm 下で、実寸はすべて呼びより大きい側に開きます。工具は呼びとぴったりか小さめ、穴は呼びよりわずかに大きめに作られます。工具が穴に入らない事態を避けるための設計です。M6 の穴(5.02〜5.14)に呼び5mm のレンチ(4.95〜5.00)を差すと、隙間は最小0.02mm、最大0.19mm。
この隙間が「はめあい」です。締まっているほど六つの角が均等に当たり、広いほど二つか三つの角に力が集中してなめやすくなります。
この隙間は小さいです。M5 を例にとると、穴の s は呼び4mm で実寸4.020〜4.095mm、レンチの s は呼び4mm で実寸3.95〜4.00mm。両者の隙間は最小0.02mm、最大でも0.145mm しかありません。0.1mm 前後のはめあいのなかで、六角の六つの角が力を受け止めています。隙間が設計どおりなら、六面がほぼ均等に当たります。角が一つでも先に潰れると、残りの角に荷重が偏り、そこからさらに削れます。呼びの数字が同じでも、実寸が0.1mm 動くだけで当たり方が変わります。
「対辺がなめる」現象は、たいてい呼びの数字が合っていないからではなく、実寸の隙間が広がって起きます。レンチの角が摩耗して丸まると、実寸は下限の4.95mm よりさらに小さくなります。穴が塗装で埋まっていたり、一度なめて変形していれば、実寸は表の上限を超えます。呼びの数字は同じ「5」のままでも、はめあいが崩れます。呼び寸法は変わらないのに実寸がずれる、と分けて理解しておくと、ガタつく理由が工具のせいか穴のせいか切り分けられます。呼びの4mm という一つの数字の内側に、穴の許容差と工具の許容差という二つの範囲があります。実物どうしのはめあいは、その二つの差として現れます。
もう一つ、規格の外にあるのがボールポイントです。レンチの先端が球状で、斜めからでも差せます。ただしこの球面は、規格が定める「平面どうしの接触」ではなく、点に近い接触になります。JIS B 4648 の二面幅がそのまま効くのは、まっすぐ差し込む反対側の端です。ボールポイント側は角度をつけて回すための工夫という位置づけです。強く締める・緩める局面で二面幅がフルに働くのは、球でない側と考えてください。数値としての対辺と、使い勝手のための形状は、同じ工具でも役割が分かれています。
呼び径と対辺がずれていく −1、−2、−3 の階段にも理由があります。頭の直径のなかに六角穴が収まる以上、対辺を頭の太さほど速くは大きくできません。だから対辺は呼び径から少し遅れて増えます。その遅れが段階的に効いて、差は −1 から −2 へ、大きな呼び径では −3 へと開きます。M8 で6mm、M10 で8mm と、隣り合う呼び径で対辺が2mm 跳ぶ場所があるのも、この遅れの現れです。呼び径だけを手がかりに対辺を推し量ると、ちょうどこの遅れの分だけ外します。対辺は、ねじの太さの延長ではなく、穴の寸法として独立に引くのが確実です。
あなたの条件ならこう読み替える
ここまではミリ(メートル)系の話です。インチ(SAE)系のねじが相手なら、この表はそのまま当てはまりません。インチ系の六角穴付きねじは ASME B18.3 などの別体系で、二面幅の基準寸法が違います。インチのレンチは分数で刻まれていて、1/8=3.175mm、5/32=3.969mm、3/16=4.7625mm、1/4=6.35mm。
ミリの近い呼びと並べると、1/8 と3mm は0.175mm、3/16 と5mm は0.24mm、1/4 と6mm は0.35mm ずれています。とりわけ紛らわしいのが5/32=3.969mm で、ミリの4mm との差はわずか0.03mm。見た目では区別がつかないのに別物です。近いからこそ差さってしまい、あとには前の節で見たはめあいの隙間だけが残ります。呼びの数字が「4」と「5/32」で表記からして違うのに、実寸だけが接近しているのが厄介です。
この数字について、よく調べられている疑問
できません。M5は対辺4mm、M6は5mm、M8は6mm、M10は8mm、M12は10mmで、呼び径との差は一定しません。対辺(二面幅s)はボルト頭部の六角穴の寸法として、JIS B 1176の表で呼び径ごとに個別に定められています。計算ではなく表を引く数字です。
3/16インチは4.7625mmで、5mmとは約0.24mm違います。ミリとインチ(SAE)は別々の規格体系で、二面幅の基準寸法が異なります。片方の工具をもう片方の穴に差すと、はめあいの隙間が大きくなり、力をかけたとき角が接触してなめる原因になります。
呼びの5mmは基準寸法で、実寸には許容差があります。JIS B 4648ではレンチの二面幅は呼び5mmがそのまま実寸の上限で、実寸は4.95〜5.00mm。JIS B 1176では穴の二面幅は呼びを下回らない側へ許容差が開き、実寸は5.02〜5.14mmと呼びよりわずかに大きくなります(呼び5.00は実寸の最小5.02よりさらに下)。この差がはめあいの隙間で、レンチ側の摩耗や穴の変形でさらに広がります。
この記事の限界
- JIS B 1176・JIS B 4648の規格本文は有償で、当サイトが読んだのは規格本文の転載ページ(kikakurui.com、jis.eomec.com)とメーカーの抜粋表。数値は独立した複数の資料で一致を確認したが、公式発行版そのものは参照していない。
- 六角穴二面幅sの最大・最小の細かな値(M5=4.020〜4.095mmなど)は転載ページ1件で確認した。呼び寸法(M5=4、M6=5、M8=6mm)は複数資料で一致している。
- ISO 4762・ISO 2936・ASME B18.3はISOおよびASMEの公開目録ページと標準関連サイトで表題・発行年を確認したが、本文(PDF)は開いていない。
- ボールポイントの角度や接触の仕様はメーカー公開情報に基づく二次情報で、規格が定める二面幅の定義とは別枠。
出典
- ISO 4762:2004 Hexagon socket head cap screws/ ISO / 2026-07-15 確認
- ISO 2936:2014 Assembly tools for screws and nuts — Hexagon socket screw keys/ ISO / 2026-07-15 確認
- B18.3 Socket Cap, Shoulder, Set Screws, and Hex Keys (Inch Series)/ ASME / 2026-07-15 確認
- 六角穴付ボルト(JIS B 1176:2014 より抜粋)/ ミスミ / 2026-07-15 確認
- SAE to Metric Conversions for Hex Keys/ Hand Tool Essentials / 2026-07-15 確認
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