ベアリング「6203」の03は15mmではない — 内径番号が17mmになる理由
深溝玉軸受の「6203」は、内径17mm・外径40mm・幅12mmの軸受です。末尾の「03」が内径番号で、これが17mmにあたります。ここでつまずく人が多いのは、内径番号に「番号を5倍すると内径mmになる」という有名な規則があるからです。04なら20mm、20なら100mm、96なら480mm。この規則を03に当てはめると、答えは15mmになります。でも15mmは02の値です。03の値ではありません。
5倍の規則の外にあるのは、内径番号00・01・02・03の四つだけです。00が10mm、01が12mm、02が15mm、03が17mm。5倍が効きはじめるのは04(20mm)からで、そこから先は96(480mm)まで規則どおりに続きます。つまり最初の四つだけが例外の飛び値で、04から先は等間隔です。6203の「03」は、その例外の四つ目にあたります。
資料には何が書かれているか
最初に整理しておきます。呼び番号を定めているのは JIS B 1512-1 ではありません。JIS B 1512-1:2011 の表題は「転がり軸受―主要寸法―第1部:ラジアル軸受」で、寸法を定めた規格です。呼び番号そのものは JIS B 1513「転がり軸受の呼び番号」(英文表題 Rolling bearings – Designation)が受け持っています。日本規格協会の書誌ページの規格概要も、JIS B 1512 に規定する主要寸法をもつ軸受のうち一般に用いられるものの呼び番号を規定する、という趣旨です。寸法を決める規格と、その寸法に番号を割り当てる規格は、別々になっています。
NTN 転がり軸受総合カタログ CAT.No.2203「主要寸法と呼び番号」|資料の記述(要旨)転がり軸受の主要寸法とは軸受の輪郭を示す寸法であり、国際的な互換性と経済的な生産のために ISO で標準化され、日本では JIS B 1512 シリーズが規定している。内径・外径・幅(高さ)と面取寸法がその中身で、軸受を軸およびハウジングに取り付けるときの寸法である。内部構造に関する寸法は原則として規定されていない。
最後の一文が、この記事の主題そのものです。規格が押さえているのは輪郭で、中身ではありません。
内径番号の対応は、メーカー各社の公開資料が同じ表を載せています。NTN のカタログは内径番号00から96までと、スラッシュを使う特殊寸法(/22は22mm、/28は28mm、/32は32mm)まで一覧にしています。NSK は呼び番号の分解図に「03以下 軸受内径 00:10mm、01:12mm、02:15mm、03:17mm/04以上 軸受内径 内径番号×5(mm)」と、規則と例外を一行で並べています。ジェイテクトも同じ対応を示し、5倍が成り立つのは内径番号04〜96の範囲だと明示しています。三社の記載は一致します。
ISO 15:2017 序文(公開プレビュー)|資料の記述(要旨)この規格の目的は、経済的な生産を確保できる程度までラジアル軸受の寸法の種類を絞り込みつつ、軸受使用者の現在および将来の必要を満たすだけの寸法をなお用意しておくことにある。円すいころ軸受、インサート軸受、一部の針状ころ軸受、計器用精密軸受は、この寸法計画には適合しない。
ISO 15 は第4版が2017年7月に出ています。ISO/TC 4(転がり軸受)が作成し、第3版(ISO 15:2011)を置き換えました。JIS B 1512-1:2011 は、この ISO 15 の1998年版に対応します(MOD、修正)。序文にある「寸法の種類を絞り込む」という目的が、6203の17mmを生んでいます。作れる寸法をすべて用意するのではなく、決められた寸法だけを並べて、そこに番号をふる。17mmは、その決められた寸法のひとつです。
定義と試験条件
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 6(形式記号) | 単列深溝玉軸受 一次資料で確認 | NTNの軸受系列記号表では60・62・63などが深溝玉軸受 |
| 2(直径系列) | 外径・幅の系列。62は幅系列0+直径系列2 二次資料で確認 | 幅系列0は呼び番号に表示しない。直径系列の記号は 7・8・9・0・1・2・3・4(NTNカタログ表5.1で確認。ISO 15 の本文表は有償部分のため未読) |
| 03(内径番号) | 内径17mm 一次資料で確認 | 04以上は番号×5。00〜03は10・12・15・17mmと個別定義 |
| 主要寸法 | 内径17mm・外径40mm・幅12mm 一次資料で確認 | JIS B 1512-1(ISO 15 MOD)。NTN・ジェイテクトの寸法表で一致 |
| 呼び番号を定める規格 | JIS B 1513(転がり軸受の呼び番号) 一次資料で確認 | 1995年版が現行。2024年10月21日に確認。原案作成は日本ベアリング工業会 |
| ZZ・2RS・DDU・LLUなど | シール/シールドの補助記号 二次資料で確認 | 各社がJIS以外の補助記号を併用していると自社資料に明記 |
| C3(すきま記号) | 内径17mmではラジアル内部すきま11〜25μm 一次資料で確認 | CNは3〜18μm。NTN表8.8とNSKの表が一致。JIS B 1520-1(ISO 5753-1) |
| Cr(基本動定格荷重) | 100万回転の基本定格寿命を与える一定荷重 一次資料で確認 | JIS B 1518(ISO 281)。値は各社の材料・製造方法にもとづく |
6203が保証するもの、しないもの
6203という五文字が保証するものと、しないものの境目は、思っているよりずっと手前にあります。
まず、保証される側です。内径17mm・外径40mm・幅12mm、これは動きません。NTN の寸法表もジェイテクトの製品ページも、同じ17×40×12を載せています。ISO 15 が寸法を決め、JIS B 1512-1 がそれを国内に写し、JIS B 1513 がその寸法に番号を割り当てているからです。だから6203は、どれも軸とハウジングの穴に同じように収まります。呼び番号が保証しているのは、この取り付けの互換性です。
次に、保証されない側です。同じ NTN のカタログには、寸法表の基本動定格荷重は自社で用いている標準的な材料および製造方法による値だ、と書いてあります。これは注意書きというより、定格荷重という数値の性格そのものの説明です。実際、公開資料の6203の基本動定格荷重 Cr は一致しません。NTN が10.6kN、ジェイテクトが12.0kN、NSK は標準品10.5kN・NSKHPS 6203で10.1kN。同じ17×40×12の穴に収まる同じ「6203」で、1割から2割の開きがあります。許容回転速度も、NTN がグリース潤滑で18000min-1、ジェイテクトが17000min-1、NSK の標準品が20000min-1と、そろいません。
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| NTN | Cr 10.6kN/C0r 4.60kN | 許容回転速度 グリース18000min-1・油21000min-1。CAT.No.2203寸法表 |
| ジェイテクト(Koyo) | Cr 12.0kN/C0r 4.80kN | 許容回転速度 グリース17000min-1・油21000min-1。質量0.065kg |
| NSK(標準 6203) | Cr 10.5kN/C0r 4.80kN | 許容回転速度 グリース20000min-1・油24000min-1。NSKのオンライン製品ページ(oss.nsk.com) |
| NSK(NSKHPS 6203) | Cr 10.1kN/C0r 4.80kN | NSKHPSは従来品比で寿命15%向上・許容回転数15%向上とNSKが説明。標準品6203の公開値Cr 10.5kNとは別で、C0rは標準品・NSKHPSとも4.80kN |
NSK の資料を見ると、この構図がもっとはっきりします。NSKHPS は「従来品に比べて、寿命15%UP、許容回転数15%UP」と説明されているシリーズですが、呼び番号の基本番号は6203のままです。つまり同じメーカーの中でも、6203という番号を共有したまま、公開される基本動定格荷重(標準品10.5kN・NSKHPS 10.1kN)も寿命も許容回転数も違う製品が並びます。番号は寸法の位置を示すもので、性能の証明書ではありません。
では基本動定格荷重とは何でしょうか。JIS B 1518(対応国際規格 ISO 281)が定義しています。NTN の解説では、基本定格寿命とは、一群の同じ軸受を同一条件で個々に回転させたとき、その90%が転がり疲れによるスポーリングを生じることなく回転できる総回転数のことです。基本動定格荷重は、その基本定格寿命を100万回転にする一定荷重です。信頼度90%の統計値で、100%の保証ではありません。同じ資料は、同じ軸受を同じ条件で回しても寿命にはかなり大きなばらつきがある、材料の疲れそのものにばらつきがあるからだ、とも書いています。90%という数字は、そのばらつきを承知のうえで引いた線です。ISO 281:2007 で寿命修正係数 aISO が導入され、それを受けて JIS B 1518 が2013年に改正されました。この経緯も、規格が統計の上に立っていることを示しています。
ボルトの強度区分「10.9」 も、数字の見た目と中身がずれた符号でした。あちらは刻印の1000MPaが呼び値で、規格が合否に使う最小値は1040MPa。6203の「03」も、これとよく似ています。数字ではありますが、そのままの値ではなく、寸法の位置を指す符号です。
もうひとつ、規格が押さえている値があります。すきま記号です。C3 が指すラジアル内部すきまは、内径17mmの区分(呼び軸受内径10を超え18以下)で11〜25μm。記号なしの普通すきま CN は3〜18μm。この数値範囲は、NTN の表8.8 と NSK の表がぴたりと一致します。定格荷重は各社でばらけるのに、すきまはばらけません。すきまの等級は JIS B 1520-1(ISO 5753-1)で数値そのものが決められているからです。つまり6203という番号の中には、規格が決めた値とメーカーが決めた値が同居しています。図面の 表面粗さ「Ra 1.6」 が、カットオフ値という測定条件を省いたまま流通しているのと、よく似た構図です。省かれているのは数値ではなく、その数値が意味を持つための前提のほうです。
あなたの条件ならこう読み替える
すきまについては、もう一段の読み替えが要ります。NTN の解説にある軸受内部すきまの定義は、軸またはハウジングに取り付ける前の状態で測った値です。取り付けたあとの値ではありません。しめしろを与えて軸に取り付けると内輪が膨張し、内部すきまは減ります。減少量は有効しめしろの70〜90%程度とされています。運転中は外輪の温度が内輪や転動体より5〜10℃低くなるのが一般的で、その温度差の分もすきまを食います。運転すきまは、初期すきまからこの二つを引いた残りです。C3を選ぶ場面が「しめしろが大きいとき」「内輪が加熱されるとき」に集まるのは、この引き算の結果です。はめあいの話ははめあい公差「H7」と地続きで、軸受のすきま記号は、その公差の帰結を先回りして吸収するための符号と読めます。
呼び番号を読んで分かるのは、その軸受が軸とハウジングのどこに収まるか、内部すきまと精度がどの等級か、までです。分からないのは、鋼の質、熱処理、保持器の設計、軌道面の仕上げ、封入されたグリース、そしてそれらの帰結である寿命と許容回転数です。呼び番号が同じでも設計が同じとは限りません。これは経験則ではなく、主要寸法の規格が内部構造の寸法を規定していないことから来ています。ボルトの強度区分「10.9」が引張強さと降伏点の符号でしかなかったのと同じで、6203もまた、寸法の位置を指す符号です。
なお、実際にどの軸受を使うか、いま付いているものを別の呼び番号や別の等級に替えてよいかの判断は、この記事の外です。機械の荷重条件・温度条件・取り付け精度を把握している技術者や、メーカーの技術部門に確認してください。当サイトが書けるのは、その数値がどういう定義と条件で決まっているか、そしてあなたの条件がその前提とどこで食い違うか、までです。
この数字について、よく調べられている疑問
内径番号は04以上なら「番号×5」で内径mmになりますが、00・01・02・03だけはこの規則の外にあり、それぞれ10mm・12mm・15mm・17mmと個別に定義されています。03に×5を当てはめると15mmになりますが、それは02の値です。03は17mmです。
同じなのは主要寸法(内径17mm・外径40mm・幅12mm)とラジアル内部すきまの等級です。基本動定格荷重は各社が自社の材料と製造方法にもとづいて算出しており、公開資料上で10.1kN〜12.0kNと差があります。許容回転速度も一致しません。
直径系列の2です。内径17mmのまま外径と幅を変えた系列があり、6003は17×35×10mm、6203は17×40×12mm、6303は17×47×14mmになります。番号の真ん中の数字が大きいほど、同じ内径でも外形が大きく、断面が太くなります。
C3のようなすきま記号が指す内部すきまの数値範囲は規格側にあり、内径17mmではC3は11〜25μmとメーカーをまたいで一致します。一方ZZ・2RS・DDU・LLUといったシール記号の書き方はメーカーごとの流儀で、各社ともJIS以外の補助記号を併用していると明記しています。
この記事の限界
- JIS B 1513・JIS B 1512-1・JIS B 1518・JIS B 1520-1 の規格票本文は有償で、無料公開されていない。本記事は書誌ページ・工業会の公開一覧・メーカーの公開技術資料から組み立てており、規格票の条文そのものは読んでいない。
- JIS B 1513 の対応国際規格について、日本ベアリング工業会の一覧表では対応国際規格欄が「―」(なし)と読み取れた一方、日本規格協会の書誌ページからは対応する ISO 番号を特定できなかった。呼び番号そのものを定めた ISO 規格の有無は確定できていない。
- JIS B 1513 の規格票本文は有償で、当サイトは購入していない。書誌ページで確認できたのは、制定 1965-03-01、最新改正 1995-02-01、最新確認 2024-10-21 という書誌情報までである。呼び番号の構成規則そのものは、メーカー各社の技術資料が一致する範囲で記述した。
- 内径番号00〜03がなぜ10・12・15・17mmという個別の値になったのか、その決定の経緯を記した一次資料には到達できなかった。番号と寸法の対応が現にそうであることだけを確認している。
- NSKの6203は、メーカー自身の公開資料の中で二通りの値が出る。標準品はNSKのオンライン製品ページ(oss.nsk.com)が基本動定格荷重Cr=10.5kN・基本静定格荷重C0r=4.8kNを示し、NSKHPSは産業機械モータ用軸受カタログがCr=10.1kNを示す(C0rはどちらも4.8kN)。本文とCrossVendor表には両方を併記した。
- 当サイトは試験設備を持たず、寸法・定格荷重・すきまの実測は行っていない。すべて公開資料の記載値である。
出典
- JIS B 1513:1995 転がり軸受の呼び番号/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-15 確認
- JIS B 1512-1:2011 転がり軸受―主要寸法―第1部:ラジアル軸受/ 日本規格協会 JSA Group Webdesk / 2026-07-15 確認
- 転がり軸受関連JIS一覧表/ 一般社団法人 日本ベアリング工業会 / 2026-07-15 確認
- 転がり軸受総合カタログ CAT.No.2203(主要寸法と呼び番号/深溝玉軸受/定格荷重と寿命/軸受内部すきま)/ NTN株式会社 / 2026-07-15 確認
- 産業機械モータ用軸受カタログ/ 日本精工株式会社(NSK) / 2026-07-15 確認
- 6203シリーズ(深溝玉軸受)製品ページ/ 日本精工株式会社(NSK)/NSK Online Sample Service / 2026-07-16 確認
- 呼び番号/6203 商品情報/ 株式会社ジェイテクト(Koyo) / 2026-07-15 確認
- ISO 15:2017 Rolling bearings — Radial bearings — Boundary dimensions, general plan/ International Organization for Standardization / 2026-07-15 確認
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