乾電池の「単3形」「1.5V」——LR6という記号が化学種と形状を符号化している
「単3形」は日本での呼び名です。同じ電池を、米国などでは「AA」、規格の世界では「LR6」という形式記号で呼びます。LR6の三文字には意味があります。Lが電気化学系(アルカリ)、Rが電池の形状(円形=round)、6がサイズです。※Rの円形は、円筒形・ボタン形・コイン形をまとめて指す記号で、単3形は円筒にあたります。つまり記号だけで「何でできていて、どんな形で、どの大きさか」がわかります。マンガン乾電池なら、同じ単3形でもR6と書き、頭のLが付きません。側面の刻印を読むだけで、中身の化学が違うとわかります。
「1.5V」も、いつでも出ている電圧ではありません。負荷をかけない新品の開放電圧は1.5Vより高く、1.6V前後あります。使うほど下がります。1.5Vは公称電圧、つまり代表値として決めた一点の数字です。放電の終わりは、別に定めた放電終止電圧(アルカリ単3形なら0.9Vが一例)で判断します。しかも、同じ単3形でも化学が変われば公称電圧も変わります。ニッケル水素は1.2V、単3形の一次リチウムは1.5V、コイン形などのリチウムは3.0V系です。形が同じでも、記号が一文字違えば電圧が違います。この記号と数値がどの規格のどんな定義から来ているのかを、JIS C 8500 と IEC 60086 の定義までたどります。当サイトが確認できたのは、本文の転載と業界団体・メーカーの公開資料の範囲です。
資料には何が書かれているか
形式記号の骨組みは、電池工業会(BAJ)の公開解説とJISの本文で一致していました。記号は「先頭の数字(直列につないだセルの数)+化学系記号+形状記号+サイズ数字」の並びです。セルが1個のときは、先頭の数字を省きます。だから単3形アルカリはLR6になります。9V形の角電池が6F22なのは、6個のセルを直列にした角形(F)だからです。同じ規則の別の現れ方です。
電池工業会「電池の規格について」の解説による(要旨)|資料の記述(要旨)乾電池の形式は、直列セル数・電気化学系・形状・サイズを表す記号を連ねたもの。化学系記号は、マンガンが無印、アルカリがL、リチウム系がB・C等。形状記号のRは「円形(円筒形、ボタン形、コイン形)」で、Fは非円形(角形)を指す。R6とLR6は同じ単3サイズで、頭のLの有無が化学の違いを表す。
化学系記号と公称電圧の対応も、JISの本文(転載)と英語版IEC 60086の解説で符合しました。頭の文字が、化学系と公称電圧をまとめて指します。無印のマンガンとLのアルカリはともに1.5V、Cのリチウム二酸化マンガンとBのリチウムフッ化炭素は3.0V、Fのリチウム鉄二硫化は1.5V、Sの酸化銀は1.55Vです。単3形の一次リチウムがFR6で1.5Vなのは、このFが二酸化マンガン系(C=3.0V)とは別の化学だからです。同じ「リチウム」でも、記号が違えば電圧が違います。
JIS C 8500:2017 一次電池通則(kikakurui.com 転載本文より・要旨。定義文は逐語引用)|資料の記述(要旨)表題は「一次電池通則(Primary batteries−General)」、対応国際規格は IEC 60086-1:2015(修正=MOD)。電気化学系ごとに記号(L=アルカリマンガン、無印=マンガン、B・C 等=リチウム一次)を割り当てる(以上は要旨)。公称電圧の定義は逐語で「使用される材料(正極,負極,電解液など),すなわち電池系によって決まってくる電圧に基づいて規定する電池電圧」、終止電圧(放電終止電圧)の定義は逐語で「放電試験を終了する値として規定する閉路電圧」。
公称電圧が「電極材料で決まる代表値」であることは、パナソニックのFAQが電位差の数字まで示していました。アルカリは正極の二酸化マンガンが約0.3V、負極の亜鉛が約マイナス1.2Vで、その差が1.5Vです。ニッケル水素は正極の水酸化ニッケルが約0.5V、負極の水素吸蔵合金が約マイナス0.7Vで、その差が1.2Vです。電圧は設計者が決めた数字ではなく、選んだ電極の組み合わせから出てくる差です。
定義・試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 形式記号 LR6 の分解 | L=アルカリ/R=円形(round)/6=サイズ 二次資料で確認 | Rは円形=円筒・ボタン・コインを含む。単3は円筒。先頭にセル数が付く規則 |
| 呼び名の対応 | 単3形(JIS通称)=AA(米国等)=LR6(形式記号) 二次資料で確認 | マンガンの単3形はR6 |
| 外形寸法 | 直径 約14.5mm × 総高 50.5mm 二次資料で確認 | Panasonic/Maxellの公開値 |
| 公称電圧(アルカリ・マンガン) | 1.5V 二次資料で確認 | 代表値。常時この電圧ではない |
| 新品の開放電圧 | 約1.6V(1.5Vより高い) 二次資料で確認 | 無負荷での測定値 |
| 放電終止電圧 | 0.9V(一例) 二次資料で確認 | 放電試験を終える閉路電圧としてJISが定義 |
| 参考放電条件の一例 | 250mA・1日1時間・20℃・終止0.9V 二次資料で確認 | メーカー公表の一例。条件で容量は変わる |
| 公称電圧(ニッケル水素) | 1.2V 二次資料で確認 | 同じ単3形でも化学が違う |
| 公称電圧(単3形リチウム FR6) | 1.5V 二次資料で確認 | コイン形CR/BRは3.0V系で別物 |
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| パナソニック | LR6/公称1.5V | エボルタNEO等。仕様に約Φ14.5×50.5mm |
| マクセル | LR6/単3形 | 日本(JIS/IEC)呼称としてLR6、寸法14.5×50.5 |
| FDK(富士通) | LR6/1.5V | High Power 単3形として1.5V表示 |
記号と1.5Vはどう読むか
いちばん誤解しやすいのは、LR6を「単3の上位版」や「良い単3」と読んでしまうことです。LR6とR6は上下の関係ではありません。頭のLの有無は、アルカリかマンガンかという化学系の違いを示すだけです。優劣を並べた番号ではありません。IPX7とIPX8の末尾の数字が「厳しさの順位」ではなく別の試験条件を指すのと、同じ構図です(IPX7とIPX8 で扱ったとおり、記号は等級の階段とは限りません)。LR6は、性能の順位ではなく、化学系・形状・サイズという三つの軸の座標として読みます。末尾の6が「単3の大きさ」を指すのは、ベアリングの番号「6203」 が寸法の座標であるのと同じです。番号は点数ではなく位置を指します。
「1.5V」も、順位ではなく代表値として読みます。公称電圧は、放電のどこか一点を切り取って「だいたいこのくらいの電圧の仲間」と示すラベルです。放電中ずっと出続ける値ではありません。新品の開放電圧が1.6V前後あるのは異常ではありません。負荷のない状態で測れば、そうなるだけです。使えば下がり、放電終止電圧まで来たら「この試験はここで終わり」と線を引きます。JISは放電終止電圧を「放電試験を終了する値として規定する閉路電圧」と定義しています。寿命を、無負荷ではなく電流を流した状態(閉路)の電圧で切っているわけです。1.5Vは、放電カーブの上に置いた一点の目印にすぎません。LED電球の「60W形相当」が消費電力ではなく明るさの代表点を指すのと同じです。代表値は現物の全部を語りません。
同じ単3形でも、公称電圧は1.5V・1.2V・1.5V(リチウム)と割れます。「形が同じなら中身も同じ」という直感は、ここで崩れます。電圧は外形ではなく、電極材料の組み合わせで決まるからです。アルカリの亜鉛と二酸化マンガンの差が1.5V、ニッケル水素の水素吸蔵合金と水酸化ニッケルの差が1.2V。この0.3Vの差は、材料を変えた以上は動きません。だから「単3形」だけでは電圧は決まりません。記号の頭の文字までそろえて、初めて電圧の話ができます。
放電の途中経過を思い浮かべると、1.5Vの意味がはっきりします。アルカリ乾電池の放電カーブは、容量を使い切る手前まで比較的なだらかに下がり、限界を越えると急に落ちます。1.5Vは、そのなだらかな部分のどこかを代表として切り取った数字です。放電の最初でも最後でもありません。しかもJISは、寿命の線を無負荷の開放電圧ではなく閉路電圧(電流を流した状態の電圧)で引いています。そのため、テスターを当てて出る数字と、機器が実際に受け取っている電圧は、必ずしも一致しません。無負荷で1.4V残っていても、負荷をかけると終止電圧を割っている。こうした食い違いが起こります。※数字を一つ読むだけでは足りません。無負荷か閉路か、放電のどの局面かまで添えて、初めて意味が定まります。
容量(mAh)を乾電池が側面に印刷しない理由も、はっきりしています。パナソニックは、乾電池は使い方で取り出せる容量が著しく変わるため、容量を表示していないと説明しています。流す電流やオン・オフの条件で変わる、ということです。同じLR6でも、大電流を短時間で吸い出すか、小電流でゆっくり使うかで、取り出せる総量が変わります。だから容量には、必ず「何mAで、何Vまで放電したときの値か」という条件がセットになります。mAhが印刷された充電池でも、その数字は特定の放電条件での代表値です。無条件の絶対量ではありません。※数値そのものより、その数値がどの条件で測られたかのほうが重い。これが電池の性格です。
各社の表記を並べても、この読み方は崩れませんでした。パナソニックもマクセルもFDK(富士通)も、単3形のアルカリをLR6・1.5Vと表記し、寸法も直径約14.5mm・総高50.5mmでそろえています。記号がメーカーをまたいで同じ意味だからこそ、LR6の三文字だけで店頭の電池を選び分けられます。この三文字が指すのは化学系・形状・サイズです。どのメーカーが優れているかでも、いま何ボルト出ているかでもありません。
あなたの条件ならこう読み替える
一つ、はっきりさせておきます。この記事は、記号と数値がどう定義されているかを読むためのものです。あなたの機器にどの電池を入れるべきかを決めるものではありません。機器が求める電圧や電流の範囲、指定された電池種別は、その機器の取扱説明書に書かれています。当サイトが言えるのは「LR6の1.5Vは化学系ごとの代表値で、ニッケル水素なら1.2V、放電すれば下がる」という数値の出どころまでです。その先の適合の判断は、機器側の仕様が持っています。記号を正しく読めれば、少なくとも「同じ形だから中身も電圧も同じはず」という取り違えは避けられます。
この数字について、よく調べられている疑問
同じ電池を指す三つの呼び方です。単3形はJISで使われる日本語の通称、AAは米国などで通る通称、LR6はIEC・JISの形式記号です。ただしLR6は「アルカリの単3形」を指し、マンガンの単3形はR6と書きます。形は同じでも化学が違うと記号の頭が変わります。
1.5Vは公称電圧という代表値で、常時その電圧が出ているわけではありません。負荷をかけない新品の開放電圧は1.5Vより高く1.6V前後になり、使うほど下がります。放電の終わりは別に定めた放電終止電圧(アルカリ単3形なら0.9Vが一例)で判断します。
化学系が違えば公称電圧も違います。アルカリ・マンガンは1.5V、ニッケル水素は1.2V、単3形の一次リチウム(FR6)は1.5Vです。公称電圧は電極材料の電位差で決まるため、外形が同じでも中身の組み合わせで値が変わります。
取り出せる容量が使い方で大きく変わるためです。パナソニックの解説では、流す電流やオン・オフの条件で持続時間が著しく変化するため、乾電池では容量を表示していないと説明されています。mAhが載る充電池でも、その値は特定の放電条件での代表値です。
この記事の限界
- JIS C 8500 と IEC 60086-1 の本文は有償・会員限定で、当サイトは全文を購入して読んでいない。JISの表題・対応国際規格・記号定義は本文転載サイトと業界団体・メーカーの公開資料で裏を取ったが、条項の一字一句までは確認できていない。
- 当サイトが本文転載で読んだJISは2017年版。検索では JIS C 8500:2022(2022-08-22 改正、IEC 60086-1:2021 に MOD 対応)の存在を確認したため、現行はこの2022年改正版。改正で記号定義や試験条件がどこまで変わったかは全文未確認。
- 「新品は約1.6V」「放電終止電圧0.9V」「参考放電 250mA・1日1時間・20℃」は、メーカーの公開仕様・解説で確認した代表値・一例であり、製品・ロット・測定条件で前後する。当サイトは試験設備を持たず、値を実測していない。
- 一次リチウムの公称電圧は化学系ごとに幅がある。単3形リチウム(FR6)が1.5Vである点はメーカー製品情報で確認したが、コイン形CR/BRの3.0Vや円筒形の3.6V系はサイズも用途も別で、本稿では単3形の範囲に絞って扱った。
出典
- 電池の規格について/ 一般社団法人 電池工業会(BAJ) / 2026-07-15 確認
- JIS C 8500:2017 一次電池通則(本文転載)/ kikakurui.com / 2026-07-15 確認
- ニッケル水素電池はなぜ1.2ボルトなのですか?/ パナソニック / 2026-07-15 確認
- 乾電池の電池容量はどれ位?/ パナソニック / 2026-07-15 確認
- 1.5Vリチウム乾電池 単3形 FR6HJ/4B/ パナソニック / 2026-07-15 確認
- アルカリ乾電池「VOLTAGE」/ マクセル / 2026-07-15 確認
- 富士通 High Power アルカリ乾電池 単3形 LR6(製品情報)/ FDK / 2026-07-15 確認
- IEC 60086/ Wikipedia / 2026-07-15 確認
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