服の「9号」「M」「38」は何の数字か — JIS L 4004・L 4005 の定義をたどる
婦人服の「9号」は、服の寸法ではありません。日本産業規格 JIS L 4005 が「バスト83cm・身長158cm・ヒップ91cm」あたりの人を指すために置いた、着る人の身体の呼び名です。メンズの「M」も同じです。JIS L 4004 が決めているのはチェスト・ウエスト・身長という着用者の身体寸法の範囲で、出来上がったシャツの身幅や着丈には触れていません。号数もS/M/Lも、測る相手は体のほうで、服に当てる目盛りとしては作られていません。同じ9号、同じMでもブランドで実物の大きさが違うのは、規格が服の寸法を決めていないからです。
号数・S/M/L・海外の「38」。この三つの表記がそれぞれ何を定義した数字なのかを、規格まで遡って確かめます。先に結論を書きます。この三つは、きれいに1対1で対応しません。「9号=M=38」は現場で使う近似で、規格が保証した等式ではありません。
資料には何が書かれているか — 号数は服ではなく身体の寸法
まず押さえたいのは、JISの衣料サイズ規格が「基本身体寸法」という言葉を軸に組み立てられている点です。
JIS L 4004:2001 成人男子用衣料のサイズ(規格本文の定義に当サイトの言い換えを交えた要旨。2001年版で確認)|資料の記述(要旨)(要旨)規格は「基本身体寸法」を、逐語では「既製衣料品のサイズの基礎となる身体部位の寸法」と定義している。男子ならチェスト・ウエスト・身長といった、着る人の体の各部位を測った値だ。呼び方(号数やS/M/Lの記号)は、この身体寸法に紐づく見出しにすぎない。規格が管理しているのは体の寸法であって、縫い上がった服の寸法ではない。
婦人服側も同じ考え方です。全日本婦人子供服工業組合連合会は、JISのサイズ表示を「ヌード寸法として着用者の身体サイズ」を示すものだと説明しています。9号にあたる旧来の「9AR」という呼び方は、9(バスト83cm)+A(体型区分)+R(身長区分の158cm)という三つの記号の組み合わせです。いずれも人体の寸法を指しています。数字だけで決まるのではなく、体型と身長のアルファベットが本来は付く体系でした。
ここで、時点による違いに注意が必要です。号数にアルファベットで体型区分(A・Y・AB・B)を添える表示は、2001年版までの姿です。2023年3月20日の改正で、婦人用の体型区分表示は「ほぼ使われていない」として削除されました。
この点は、カケンテストセンターの改正解説と繊研新聞の報道という独立した二つの資料が一致しています。バスト83cmを「9号」と呼ぶ号数そのものは残りましたが、A・Y・AB・Bの文字は現行のJIS L 4005から外れました。※体型区分表示が削除されたのは女子用で、男子用の扱いは今回確認した資料からは判断できませんでした。同じ2023改正では、女子用(JIS L 4005)にSS・4L〜6L、男子用(JIS L 4004)にSS・3L〜5Lが加わり、男女兼用サイズも設けられました。
号数がバストの何cmを指すかは、規格の表に並んでいます。3号がバスト74cm、5号が77cm、7号が80cm、9号が83cm、11号が86cm、13号が89cm、15号が92cm。ここまでは3cmずつです。15号(92cm)を超えると刻みが4cmに広がり、17号は96cm、19号は100cmになります。第三者が掲載する規格本文も、この区分を「バスト74〜92cmを3cm間隔で、92〜104cmを4cm間隔で区分」と記しています。3cm刻みと4cm刻みの境界は、あくまで15号(92cm)です。ここで取り違えやすいのが、号数の数字とバストのcmが別々の目盛りだという点です。号数は3・5・7・9と2ずつ増えますが、対応するバストは3〜4cmずつ動きます。「号数が2上がると体が2cm大きくなる」と読むと、実際の身体寸法から離れていきます。号数は連番の呼び名で、そのままcmではありません。
この関係は、タイヤの「205/55R16」で偏平率の55が%であって、数字がそのままmmではないのと似ています。表に並んだ数字が、どの単位のどの刻みを指すのか。まずそこを確かめてください。
定義・試験条件の表
| 試験条件の項目 | 規定されている値・条件 | 注記 |
|---|---|---|
| 号数(9号) | バスト 83cm 二次資料で確認 | 号は奇数(3・5・7・9・11…)が並ぶ。バスト刻みは74〜92cmが3cm、92cm(15号)から4cm |
| 体型区分(A) | A=標準/Y=ヒップ−4/AB=+4/B=+8 二次資料で確認 | バストとヒップの差で決まる。2023改正で女子用は表示を削除 |
| 身長区分(R) | PP142 / P150 / R158 / T166(cm) 二次資料で確認 | Rが標準身長158cm。区分は身長で決まる |
| 「9AR」の身体寸法 | バスト83・ヒップ91・身長158cm 二次資料で確認 | ウエストは資料により64〜67cmと差があり単一値を断定しない |
| 測っている対象 | 着用者の身体(ヌード寸法) 二次資料で確認 | 縫い上がった服そのものの寸法ではない |
この数字をどう読み解くか
三つの表記が1対1で対応しない理由は、それぞれが別々の「体系」だからです。号数・S/M/L・海外表記は、同じ服のタグに並ぶことがあっても、出自の違う三本の物差しです。SDカードの速度表記も、スピードクラス・UHSスピードクラス・ビデオスピードクラスという三つのクラスが同じカードに並んでいます。並んでいることと等しいことは、別です。SDカードの「V30」でも触れましたが、表記が三系統あるなら、まずどの系統の数字を見ているのかを見分けるところから始めます。
一つめの物差しは、号数とS/M/Lです。どちらもJISの中にあります。違いは粒度です。号数はバストを3cm刻みほど(7号80cm・9号83cm・11号86cm)で細かく指す「呼び方」、S/M/Lはより広い身体寸法の幅を一つにまとめた「範囲による表示」です。S/M/Lが範囲を束ねる表示だという点は、男子用のJIS L 4004本文に「SA・MA・LAをそれぞれS・M・Lと書いてよい」という断りがあることで確認できます。
婦人用側では、全日本婦人子供服工業組合連合会の解説がS・M・Lをバストの範囲(Mはおおむね79〜87cm)に対応づけていて、バスト83cmの9号はこのMの範囲に収まります。同じJISの中でも、9号という細かい見出しと、Mという広い見出しは、指す幅が違います。9号はMの範囲におおむね収まりますが、Mは9号より広い体型まで含みます。9号=Mという等号は現場の近似で、規格の裏づけを持ちません。
二つめと三つめの物差し、日本の号数と海外の「38」「6」「S」は、そもそも別の国の規格です。日本産業規格が日本人の身体計測をもとに号数を決めているのに対し、EU・US・UKはそれぞれ自国の体系で番号を振っています。だから換算表は、資料ごとに数字が食い違います。ある解説は9号をUS6・UK10・EU36に対応づけ、別の解説は国際的なMを日本の11号に対応づけます。
規格上の等式があるなら、こんなに割れません。割れているという事実が、これらが近似の目安でしかないことを示しています。QTECの解説は、JISの「呼び方」は規格が定める身体寸法の数値に合致していなければ使えない、と述べています。裏を返すと、海外の「38」は最初からJISの呼び方ではなく、号数とは別の体系に属する記号にすぎません。
最後に、三本の物差しに共通する前提へ戻ります。JISが決めているのは体の寸法だけで、服の寸法は決めていません。だから同じ「M」の二着でも、その体型の人が快適に着られるとメーカーが判断した実寸(身幅・着丈・肩幅)は、各社の設計しだいで変わります。号数やS/M/Lは、LED電球の「60W形相当」の「相当」に性格が近いです。
「相当」は等しいという意味ではなく、ある基準に照らした目安です。号数も、体の目安で、服の実寸ではありません。タグの記号がLANケーブルの「CAT6A」のように何かを保証して見えても、保証の中身は「その体型の人向け」までです。あなたの手元に届く服の寸法は、規格の管轄外です。
あなたの条件ならこう読み替える
海外表記の対応が資料ごとにどれだけ割れるかは、同じ「9号」を各解説がどう置き換えているかを並べると見えてきます。
| メーカー | カタログの表記 | 脚注に書かれている測定条件 |
|---|---|---|
| ファッション系解説(mnavi) | 9号 ≈ US6 / UK10 / EU36 | あくまで近似の目安として提示 |
| アパレル系解説(FASHIONSNAP) | 国際的なM ≈ 日本11号(L)/ US8 / UK12 | 基準の取り方が異なり、対応する号数もずれる |
同じ「9号」が、一方の資料ではEU36に、他方の資料では11号相当に置かれます。番号の大小がおおむね体の大小に沿う点は、IPX7とIPX8のように単純な上下関係と誤解されがちです。ですが番号が指す中身は、国ごとに別々に定義されています。だから換算表はどれも「その資料の中での近似」で、規格をまたいで成り立つ等式ではありません。合わせたいときに最後に頼れるのは、記号ではなく、身体寸法と服の実寸というcmの値です。
この数字について、よく調べられている疑問
JISの中では、号数(9号)は身体寸法を細かく指す呼び方、S/M/Lはより広い身体寸法の範囲を指す呼び方で、別の表示方法です。9号はおおむねMの範囲に入りますが、Mは幅を持つため9号=Mと1対1で決まるわけではありません。どちらも着用者の身体寸法の呼び名で、服そのものの寸法を指すものではありません。
38は主にヨーロッパで使われる表記で、日本の号数とは別の国の体系です。確認した資料では9号を38に対応づけるものも、国際Mを11号に対応づけるものもあり、数値が食い違います。JISの号数は日本人の身体寸法をもとに決めた呼び方で、海外表記との間に規格上の等式はありません。合わせるならcm単位の実寸で比べる必要があります。
JIS L 4004・L 4005が定めているのは着用者の身体寸法(ヌード寸法)であって、出来上がった服の寸法ではありません。同じ「M」でも、その身体寸法の人に合うと各社が判断した服の実寸(身幅や着丈)は会社ごとに異なります。表記が同じでも実物の大きさが変わるのはこのためです。
この記事の限界
- JIS L 4004・L 4005 の本文(規格全文)は日本規格協会などで有償頒布されており、当サイトは公式頒布版を購入していない。本文の定義・数値は第三者が掲載する本文と、複数の試験機関・業界団体の公開解説を突き合わせて確認した範囲にとどまる。
- 9AR のウエスト寸法は、確認できた資料の間で64cmと67cmに食い違いがあった。号数はバストで、体型区分はヒップで決まる系統であるため、本文ではウエストの単一値を断定していない。
- 号数が奇数(3・5・7・9…)である由来について「米国サイズを参照した名残」とする解説を1件確認したが、独立した裏づけが取れていない。歴史的経緯として断定できる段階ではない。
- 号数・S/M/L と US・EU・UK 表記の換算は、資料ごとに対応する数値が異なる。本記事はどの換算表も規格上の等式としては扱っていない。
- JIS L 4005 の改正は1980年制定後、1985・1997・2001・2023年などに行われているが、各改正で号数体系のどこが変わったかまでは公式本文を確認できておらず、本記事では特定していない。
出典
- 成人男子用サイズ(抜粋)/ 一般財団法人カケンテストセンター / 2026-07-15 確認
- サイズ表示(日本のサイズ表示解説)/ 一般財団法人ボーケン品質評価機構 QTEC / 2026-07-15 確認
- JIS L 4005:2023 成人女子用衣料のサイズ(改正履歴)/ eomec(JIS規格一覧) / 2026-07-15 確認
- 日本と海外のサイズ表記の違いについて/ FASHIONSNAP / 2026-07-15 確認
- 服のサイズ9号はどれくらい/ mnavi / 2026-07-15 確認
訂正履歴
- 2026-07-16バスト刻みの記述を訂正。当初「17号(96cm)を超えるあたりから刻みが4cmに広がる」としていたが、正しくはバスト74〜92cmが3cm刻み、92〜104cmが4cm刻みで、境界は15号(92cm)にあり、15号→17号(92→96cm)で既に4cm刻みへ移る。「3cmずつ刻まれ17号(96cm)」という元の記述は、3cm刻みなら17号が95cmになる自己矛盾も含んでいた。kikakurui掲載のL4005-2001本文(「74〜92cmを3cm間隔で,92〜104cmを4cm間隔で区分」)とカケンテストセンター抜粋の生データ(92/96/100)で確認し、該当箇所を書き直した。
この記事を書いた人
Yamachiki / 運営・調査・執筆X @Yamachikichan1
規格・告示・業界基準が定める数値について、その出どころと試験条件を一次資料まで遡って記録しています。記事に書いたすべての数値には、根拠となる資料の所在(資料名・規格番号・発行者・URL・確認日)を添えています。確認できたことと、確認できなかったことを分けて書くことを、このサイトの基本方針としています。